ワクワクしたり、ドキドキしたり、映画は観客を夢中にさせる。ストーリーの面白さはもちろんのこと、実は、映画ならではの「ワクワクさせるタネとシカケ」が隠されている。
『映画のタネとシカケ』(玄光社)は、『ジュラシック・パーク』『ラ・ラ・ランド』『パラサイト 半地下の家族』などの人気・名作映画の面白さの秘密を、映画カメラマンの御木茂則さんが、図解でわかりやすく解説した一冊だ。
本書から、『ジュラシック・パーク』の一場面の解説を見てみよう。恐竜の孵化に立ち会うシーンだ。誕生を喜ぶなごやかなムードから、数学者のマルコムが恐竜の危険性を語るシリアスなムードへと移り変わっていく。このとき、黒づくめのマルコムが大きな影のようにカメラの前を横切る。マルコムが画面を切り替える効果を出し、「このシーンが転換点に入った」とそれとなく伝えているのだ。
このあと、マルコムとウー博士は孵化器から離れて研究室の一角へ動く。孵化器の周りはアンバー系の温かい色の照明だが、少し離れるとブルー系の冷たい色の照明が使われていて、シリアスさを演出する。
さらに、マルコムが人間には恐竜の生態系のコントロールはできないと話すとき、照明が足されて、それまでサングラスで見づらかった瞳が見える。瞳を見せて、マルコムの主張を強調しているのだ。直前に孵化器の周りの人々のショットが挟まることと、前後でスクリーン上のマルコムのサイズが変わることで、観客のほとんどは照明が足されたことに気がつかない。「シカケ」に気づかせないのが、名作の技だ。
CGアニメ映画『トイ・ストーリー4』も紹介されている。実写を研究して生まれたCGアニメには、実写映画と同じ映像効果が使われている。
作品の中ではカウボーイ人形ウッディと羊飼い磁器製人形ボー・ピープの関係性が描かれるが、御木さんいわく、2人の心情を演出しているのがレンズの選択だ。遠くにあるものが人間の目で見るよりも小さく見える「広角レンズ」と、大きく見える「望遠レンズ」、そして人間の目と同じくらいに見える「標準レンズ」の3種類を使い分けている。たとえば、2人が口論をするシーンでは、ボーを標準レンズで自然に見せて冷静さを演出し、ウッディは望遠レンズで大きく威圧的に見せて、意固地になっているさまを強調している。
レンズ以外にも、照明や背景のボケのコントロールなどを使って、2人の心情を表現しているそうだ。
ほかにも、『パラサイト 半地下の家族』で上層階級と下層階級それぞれの生き方を表現するカメラワークの効果や、『フレンチ・コネクション』のカーチェイスがハラハラする理由など、映画作りに携わっているからこそわかる映画のタネとシカケが盛りだくさん。大好きなあの作品を、今すぐ観返したくなるはずだ。
【目次】
CASE01『ジュラシック・パーク』監督:スティーヴン・スピルバーグ
興奮と危機感を見せる映像演出
CASE02『ラ・ラ・ランド』監督:デイミアン・チャゼル
オープニングのダンスシーンで新しいミュージカル映画の美しさを実現した
CASE03 『フレンチ・コネクション』監督:ウィリアム・フリードキン
伝説のカーチェイスシーンはなぜハラハラするのか?
CASE04『透明人間』監督:リー・ワネル
照明とカメラワークと構図の工夫で「透明人間」の存在を描く
CASE05 『パラサイト 半地下の家族』監督:ポン・ジュノ
トラックアップで表現する上層階級と下層階級の生き方
CASE06 『トイ・ストーリー4』監督:ジョシュ・クーリー
レンズの選択とボケのコントロール、照明で登場人物の気持ちを表現する
CASE07『1917 命をかけた伝令』監督:サム・メンデス
細心の注意と職人技で誕生した"ワンショット映像"はカメラを観客に意識させない
CASE08『ミュンヘン』監督:スティーヴン・スピルバーグ
即興的な撮り方をしながら物語とカメラの動きを連動している
CASE09 『羊たちの沈黙』監督:ジョナサン・デミ
アクリル板に映り込むレクターの虚像を利用した映像演出
CASE10『ヒストリー・オブ・バイオレンス』監督:デビッド・クローネンバーグ
ショットの途中から変わる照明が人物の心情の変化を描く
CASE11『マッドマックス 怒りのデス・ロード』監督:ジョージ・ミラー
アクション・映像・音響・編集が共鳴し映画にエネルギッシュさを保ち続ける
CASE12 映画のアスペクト比とそれがもたらす演出効果を考える
■御木茂則さんプロフィール
みき・しげのり/映画カメラマン。1969年生まれ。日本映画学校(現・日本映画大学)卒業後、丸池納氏に師事。撮影助手として黒沢清監督の『勝手にしやがれ!! 強奪計画』(1995年)、『勝手にしやがれ!! 脱出計画』(1995年)『七人のおたく』(山田大樹監督・1992年)、CMでは上田義彦氏などの作品に携わる。石井岳龍監督の『生きてるものはいないのか』(2012年)『パンク侍、斬られて候』(2018年)などで撮影補として携わる他、『孤独な惑星』(筒井武文監督・2011年)『滝を見にいく』(沖田修一監督/14)『彼女はひとり』(中川奈月監督・2018年)などで照明技師としても活躍。『希望の国』(園子温監督・2012年)『眼球の夢』(佐藤寿保監督・2016年)『Laki sa Tubig』(Janus Victoria監督・2022年)では撮影、『クモとサルの家族』(長澤佳也監督・2023年)では芦澤明子氏と共同撮影。日本映画撮影監督協会 理事、神戸芸術工科大学非常勤講師。
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