幸せな老後、残念な老後を左右する「ぼけ=脳の老化」。
「ぼけ」を進行させないために、本人と家族がやるべきこととは?
2023年1月4日に発売された精神科医・和田秀樹さんの新著『ぼけの壁』(幻冬舎)は、老化を遅らせて明るく前向きに過ごすための、脳の正しい使い方を教えてくれる実用書だ。
著者の和田さんは、約6000人の高齢者を診療してきた老人精神医療のプロフェッショナル。「私ほど、認知症患者とともに、数多くの家族の様子を知っている医師は少ない」と自負するほど経験豊かだ。2022年には健康寿命を延ばす秘訣を教えた『80歳の壁』がベストセラーとなった。
本書の第2章では、その和田さんが「身内が認知症と診断されたとき、家族はどうすればいいか?」についても解説している。
たとえば、認知症患者の家族がとりがちな行動としては「一人暮らしの老親を呼び寄せて同居する」「認知症でも暮らしやすいように家をリフォームする」などがある。ところが、和田さん曰く、この2つの行為は「ぼけ」対策として不正解で、むしろ「ぼけ」を悪化させる危険性さえあるという。
認知症患者は、「新しいこと」を覚えるのが難しくなっているため、引っ越しをしても新たな環境に適応することが難しい。この環境変化がストレスや適応の障害の原因になり、認知症を悪化させる場合がある。とりわけ、田舎で暮らす親を都会に呼び寄せるのは、かなりの確率で良くない結果になるという。
リフォームの場合でも結果は変わらない。たとえば、料理好きな母親(80歳)に認知症の傾向がみえてきたので、子どもが心配して、台所をガスコンロからIHに変えた家庭があった。すると、その母親はIHの使い方を覚えられず、今までのように料理ができなくなり、認知症が急速に進行することになったという。
また、高齢者の場合、一人暮らしよりも、家族と同居しているほうが、自殺率は高い。「家族に迷惑をかけている」という自責の念が、自殺という道を選ばせる可能性もある。
では、家族はどうすればいいのか。実はその正解は、当面は「何もしない」ことだという。
初期の認知症では、患者への接し方や患者の置かれた環境を変えないことが、いちばんの介助法になる。認知症と診断されても、できるかぎり、「昨日と同じように今日を過ごす」、そして「今日と同じように明日を過ごす」こと。それが、認知症の進行を防ぐいちばんの方法なのだ。
また、ふだんの様子から「認知症ではないか」と見抜き、たとえ親が嫌がっても、いろいろと調べた上で、信頼できると思える病院まで連れていくことも家族の仕事だという。
では、どのようなときに、病院に連れていけばいいのか。「認知症ではないか」と疑うべきラインはどこなのか。たとえば、次のような症状が出たときには注意が必要だという。
その1。帰省したときに、家の中が次のような様子になっている。
・家の中が汚くなった
・家の中から異臭がする
・郵便受けに配達物がたまっている
その2。ふだんの身だしなみが、次のように乱れている。
・以前はおしゃれだったのに、いつも同じものを着ている
・季節に合った服装をしていない
・清潔さに無頓着になっている
とくに、これらの変化を本人が自覚していない場合は要注意だという。
認知症が疑われる人を病院まで連れていくのは、本人は「自分はいたって正常」と思っていることが多いだけに、なかなか大変だ。
「ボケたんだから、一度病院で診てもらうわよ」や「最近、調子おかしいでしょう。認知症かもしれないから、お医者さんに診てもらったら?」のような言葉遣いで病院に連れて行こうとすると、不要な反発を招く場合もある。
こんな時、どう言えば正解なのか。和田さんは、あえて「認知症」という言葉を使う必要はないとアドバイスする。「もの忘れの予防のため、一度検診に行きましょう」と、あくまで予防のためであるとアピールしたり、「(私が)安心したいので」と付け加えて、「家族を安心させる」という「大義名分」を作るのも良いという。
第2章ではほかにも、「『ものを盗られた』といいはじめたときには?」「同じ話ばかり繰り返すときには?」「風呂に入りたがらないときには?」など、よくあるケースへの対処法を具体的に解説している。また、別の章にも、認知症の正しい知識に始まり、認知症より恐ろしい「老人性うつ」のこと、脳の健康寿命を延ばす考え方や暮らし方まで、「ぼけの壁」を家族で乗り越えるための知識とノウハウが満載だ。
和田さんは、「『ぼけたら不幸』は思い込み」と断言する。親だけでなく、自分の将来のことも見据えて、明るく前向きに過ごすための知恵を身につけよう。
■和田秀樹さんプロフィール
わだ・ひでき/1960年、大阪府生まれ。東京大学医学部卒業。精神科医。東京大学医学部附属病院精神神経科助手、米国カール・メニンガー精神医学校国際フェローを経て、現在、和田秀樹こころと体のクリニック院長。高齢者専門の精神科医として、三十年以上にわたって高齢者医療の現場に携わっている。『80歳の壁』『70歳の正解』『マスクを外す日のために』『感情バカ』『バカとは何か』(すべて幻冬舎新書)など著書多数。
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