「『させていただく』は敬語として間違っている」と言われている。他人が使っていると気になってしまうという人もいるかもしれない。一方で、頻繁に使っている人が多いのも事実だ。
「ではそのように進めさせていただきますね」 「このたびはこんな大役を務めさせていただいて......」
日本人は、なぜ「させていただく」と言いたくなってしまうのか? この謎に、8人の言語学者が挑んだ。『「させていただく」大研究』(くろしお出版)に、その論考がまとめられている。
本書表紙にはなんと、「『させていただく』がなかったら敬語は崩壊する!?」との言葉が。『三省堂国語辞典』編集委員の飯間浩明さんは、本書の特別寄稿で「『させていただく』は敬語体系の欠陥を補う」と論じている。つまり、「させていただく」は誤用とされながらも、日本語の敬語に必要不可欠? その理由とは。
本書では、言語学の中でもさまざまな専門性を持つ執筆者たちが、敬語が使われるうちに敬意がすり減っていく現象「敬意漸減」や、漫才談話の結末句「やめさしてもらうわ」など、それぞれ独自の切り口から「させていただく」を分析。そして、編者の椎名美智さんと滝浦真人さんが、これほどまでに使われる「させていただく」がなぜ"一人勝ち"したのかを考察している。
よく使う人にとっても、苦手な人にとっても、気になる存在である「させていただく」。その正体を知りたい方には、本書をおすすめさせていただきたい。
【目次】
はじめに―「させていただく」を多角的に眺めてわかったこと―
椎名美智
第I部
特別寄稿:「させていただく」は敬語体系の欠陥を補う
飯間浩明
幻の講演を再現:敬語の歴史社会言語学―関西起源のテイタダク―
コラム 標準語の鍾乳洞モデルとテイタダク
井上史雄
第II部
第1章 敬意漸減―すり減って止まない敬意が引き起こすこと―
コラム 心優しい日本人?
滝浦真人
第2章 テモラウの依頼用法―テイタダク成立への契機―
コラム 琉球語には「~ていただく」形式がない!?
荻野千砂子
第3章 漫才談話の結末句の機能と変遷―「やめさしてもらうわ」をめぐって―
コラム 「これをあなたにもらってもらいましょう」─「あげましょう」にあたる申し出表現─
日高水穂
第4章 「させていただく」の地域差は、どういう地域差なのか―世論調査と「食べログ」調査にみる―
コラム 似てるからって油断するなよ─日本語「差し上げる」と韓国語「トゥリダ」─
塩田雄大
第5章 参与者追跡の観点から見た「させてもらう」の機能
コラム うっせぇ うっせぇ うっせぇわ 書かれているよりも健全です!
山田敏弘
第6章 「させていただく」はなぜ一人勝ちしたか?─ベネファクティブの変遷に見る敬意漸減プロセス─
付録 『「させていただく」大研究』までの足跡
滝浦真人・椎名美智
コラム 「させていただく」のこれから─「美化語」を目指す敬語たち─
コラム 「みなさまが~ていただく」? 「みなさまに~ていただく」?─助詞のシフトで、何が変わるのか?─
椎名美智
執筆者紹介
あとがき
〈編者プロフィール〉
■椎名美智さん
しいな・みち/お茶の水女子大学大学院博士課程満期退学、ランカスター大学大学院博士課程修了(Ph.D)、放送大学大学院博士課程修了(博士(学術))。現在、法政大学文学部教授。専門は歴史語用論、コミュニケーション論。主な著書は、『歴史語用論入門―過去のコミュニケーションを復元する―』(共編著、大修館書店、2011年)、『「させていただく」の語用論―人はなぜ使いたくなるのか―』(ひつじ書房、2021年)、『「させていただく」の使い方―日本語と敬語のゆくえ―』(角川新書、2022年)など。
■滝浦真人さん
たきうら・まさと/東京大学大学院人文科学研究科博士課程中退、博士(文学)(北海道大学)。現在、放送大学教授。専門は言語学、語用論、イン/ポライトネス論。主な著書は、『日本の敬語論―ポライトネス理論からの再検討―』(大修館書店、2005年)、『ポライトネス入門』(研究社、2008年)、『日本語は親しさを伝えられるか』(岩波書店、2013年)など。
〈執筆者プロフィール〉
■飯間浩明さん
いいま・ひろあき/国語辞典編纂者、『三省堂国語辞典』編集委員。
■井上史雄さん
いのうえ・ふみお/東京外国語大学・明海大学 名誉教授。
■荻野千砂子さん
おぎの・ちさこ/福岡教育大学教育学部 准教授。
■日高水穂さん
ひだか・みずほ/関西大学文学部 教授。
■塩田雄大さん
しおだ・たけひろ/NHK放送文化研究所 主任研究員。
■山田敏弘さん
やまだ・としひろ/岐阜大学教育学部 教授
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