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「やばみ」の「み」って何? 日本語の疑問に、国立国語研究所がお答え

日本語の大疑問

 若者が「やばみ」「うれしみ」といった言葉を使うのを、あなたも耳にしたことがあるかもしれない。「やばみ」の「み」って、何? そんな、私たちが日常的に使っている日本語の疑問に、「日本語の専門家」たちが言語学の知見からどんどん答えていく本が出た。『日本語の大疑問 眠れなくなるほど面白い ことばの世界』(幻冬舎)。編著に参加したのは、国立国語研究所の研究者・関係者37名だ。

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 「推しのライブ当たったんだけど! やばみ~!」「テスト無理、つらみ」「今日雨で休校になった、うれしみが深い」......さて、この「み」はいったい何なのだろうか。この疑問に答えているのは、熊本大学大学院人文社会科学研究部准教授の茂木俊伸さんだ。

文法的に見ると、この「―み」は、主に形容詞の後に付いて名詞を作る働きを持つ「接尾辞」(あるいは、「接尾語」)と呼ばれるものです。(本文より)

 つまり、「甘み」「丸み」「深み」などの「み」である。しかし、例に挙げた形容詞は「やばさ」「つらさ」「うれしさ」のように、「み」のかわりに「さ」という接尾辞で名詞化されてきた。本来「み」が付かない形容詞に「み」を付けるのが、この"新用法"だ。

 では、なぜわざわざ形容詞を名詞化するのか。茂木さんは、「名詞化が持つ婉曲性」からきていると説明する。大人でも「この日程は厳しいものがあります」のように、「もの」や「ところ」で名詞化し、直接的な主張を避けて少し距離を置いた表現にすることがある。「うれしみが深い」もそれと同じことなのだ。

 ではなぜ「さ」ではなく「み」なのか。茂木さんは、従来の用法から逸脱する新規性に加えて、「さ」と「み」の性質の違いを指摘する。単純な名詞化である「さ」に比べて、「み」には「甘み」(=甘い味)、「かゆみ」(=かゆいという感覚)のように、「感覚」の意味が加わる。つまり、やばいという感情を、本人の実感とともに表現したのが「やばみ」なのだ。

アニメのおじいちゃんが「~じゃ」と言うのはなぜ?

 もう一つ、日本語のふとした疑問をご紹介しよう。アニメ「ちびまる子ちゃん」のおじいちゃん・友蔵の喋り口調を思い出してみてほしい。「まる子や。わしはこう思うんじゃ」......こんな喋り方をするおじいちゃん、あなたの身の回りにいるだろうか? 実際にはほとんどのおじいちゃんがそんな喋り方をしないのに、なぜ「おじいちゃん」=「~じゃ」というイメージが付いているのだろう。

 この疑問に答えるのは、国立国語研究所の非常勤研究員、臼田泰如さん。キャラクターがそういう話し方をするとなぜか「そういうタイプの人」というイメージを呼び起こす、そんな日本語を学者の間では「役割語」と呼んでいるそうだ。

 なぜ「~じゃ」はおじいちゃんのイメージの付いた役割語になったのか。「~じゃ」の歴史は古く、江戸時代後期の大衆向け小説にはすでに登場していた。この時代、政治の中心は江戸だったが、文化的な価値はまだ京都・大坂の「上方」のほうが高いとされていた。それで、年を取っていて知恵があり、格調高い話し方をする人物が、「~じゃ」のような上方方言を話すキャラクターとして書かれたのだ。これが、「おじいちゃんらしい役割語」の始まりだ。

日本語のあらゆる疑問、41個

 当たり前に使っている日本語でも、じっくり分析すると奥が深いことがわかるだろう。このような疑問質問が、本書では41も取り上げられている。「『させていただく』は敬語として変?」「『シミュレーション』を『シュミレーション』と言ってしまうのはなぜ?」のような日常生活で抱く疑問から、「外国人にとって、日本語は難しい言語なのか?」「『令和』という元号は歴史的に見るとどうか?」など教養を深められそうなテーマまで、内容は幅広い。

 確認しておきたいのが、国立国語研究所(国語研)は正しい日本語を裁定する機関ではないということだ。国語研は、日本語を中心に、言語に関わる科学的な基礎・応用研究をおこなう機関。従来になかった用法でも、「これは間違いだ!」ではなく、「この用法はどんな経緯でこうなったのだろうか」とアプローチする。本書のなかでも、古語や外国語から若者の新語や絵文字まで、あらゆる言語が体系的につながっていく。

 サブタイトルの通り、眠れなくなるほどわくわくする言語の世界。この本を読めば、くだらない話も、ちょっと奥深く聞こえるようになるかもしれない。日本語って、ふしぎみが強いよね~。


※画像提供:幻冬舎


  
  • 書名 日本語の大疑問
  • サブタイトル眠れなくなるほど面白い ことばの世界
  • 監修・編集・著者名国立国語研究所 編
  • 出版社名幻冬舎
  • 出版年月日2021年11月25日
  • 定価1012 円 (税込)
  • 判型・ページ数新書判 ・264ページ
  • ISBN9784344986374

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