四字熟語は学校でも習ったが、「三字熟語」はあまり聞かない。しかし、その世界は実に多彩だ。
「雪月花(せつげっか)」「朝月夜(あさづくよ)」のように美しい景観を表す言葉や、「好事家(こうずか)」「天眼通(てんがんつう)」など人を褒めるときに使う言葉、「安本丹(あんぽんたん)」、「素寒貧(すかんぴん)」のように、クスリと笑える面白い言葉も。
そんな美しく、カッコよく、面白い「三字熟語」の世界をまとめたのが、西角けい子さんの『世にも美しい三字熟語』(ダイヤモンド社)だ。
三字熟語には、四字熟語に比べて軽やかで庶民的な言葉が多いという。その背景には、日本の美を映し出す情景や歌舞伎や落語などの伝統芸能、歴史、文学に至る日本の文化が反映されている。
本書では、三字熟語の真ん中の一文字を考えるクイズ形式で学んでいく。例えばこちら。いずれも耳にしたことのある言葉だが、いざ漢字を書くとなると、あれ?と戸惑う人も多いのでは。
各ページに、語句の意味はもちろん、由来や使用例が掲載されている。美しい「三字熟語」沼にはまりそう。
本書で紹介している三字熟語の例は以下の通り。
第1章 人をほめる時に使う三字熟語
姉御肌(あねごはだ)、偉丈夫(いじょうふ)、韋駄天(いだてん)、気丈夫(きじょうぶ)、麒麟児(きりんじ)、好事家(こうずか)、先覚者(せんかくしゃ)、素封家(そほうか)、天眼通(てんがんつう)、美丈夫(びじょうふ)、益荒男(ますらお)、見巧者(みごうしゃ)、ほか
第2章 使うとかっこいい三字熟語
阿修羅(あしゅら)、歓喜天(かんぎてん)、帰去来(ききょらい)、橋頭堡(きょうとうほ)、健啖家(けんたんか)、小半時(こはんとき)、獅子吼(ししく)、知情意(ちじょうい)、等閑視(とうかんし)、如夜叉(にょやしゃ)、翻筋斗(もんどり)ほか
第3章 世にも美しい三字熟語
朝月夜(あさづくよ)、十六夜(いざよい)、朧月夜(おぼろづきよ)、案山子(かかし)、寒垢離(かんごり)、五月雨(さみだれ)、不知火(しらぬい)、真善美(しんぜんび)、雪月花(せつげっか)、蝉時雨(せみしぐれ)、日照雨(そばえ)、半夏生(はんげしょう)ほか
第4章 使ってはいけない三字熟語
青瓢箪(あおびょうたん)、黄口児(こうこうじ)、村夫子(そんぷうし)、ほか
第5章 思わず笑ってしまう三字熟語
安本丹(あんぽんたん)、奇天烈(きてれつ)、素寒貧(すかんぴん)、素頓狂(すっとんきょう)、駄法螺(だぼら)、猪口才(ちょこざい)、珍紛漢(ちんぷんかん)、珍無類(ちんむるい)、突樫貪(つっけんどん)、唐変木(とうへんぼく)、頓珍漢(とんちんかん)、ほか
第6章 日本人の心情を表す三字熟語
悪太郎(あくたろう)、伊呂波(いろは)、産土神(うぶすな)、十八番(おはこ)、下手物(げてもの)、守破離(しゅはり)、序破急(じょはきゅう)、垂乳根(たらちね)、転失気(てんしき)、土性骨(どしょうぼね)、南無三(なむさん)ほか
第7章 知っていると恥をかかずにすむ三字熟語
依怙地(いこじ)、自堕落(じだらく)、守銭奴(しゅせんど)、太公望(たいこうぼう)、半可通(はんかつう)、鼻下長(びかちょう)、風馬牛(ふうばぎゅう)、風来坊(ふうらいぼう)、朴念仁(ぼくねんじん)、野暮天(やぼてん)、四方山ほか
特別コラム 夏目漱石と太宰治の「三字熟語」の世界
「見たことはあるけど読めない」「読めるけど意味はわからない」、さらには「読めないし意味も分からない」という言葉がたくさんある。
ここで答え合わせをしよう。
まず、見出しの「見巧者」は「みごうしゃ」。芝居などを見ることの上手な人を指す。「翻筋斗」はもんどり。「もんどりを打つ」の「もんどり」だ。漢字を見ると、なるほど、と納得がいく。
空欄を埋めるクイズの答えは、右から綺羅星(きらぼし)、麒麟児(きりんじ)、金字塔(きんじとう)。これらの三字熟語を使いこなせたらかっこいい。
著者の西門さんは、塾の代表で学習コンサルタント。国語力を急伸させる「ニシカド式メソッド」で14年連続、超難関公立中高一貫校への合格者を出した実績の持ち主だ。一方で、ひょんなことから、国語の世界で影が薄い「三字熟語」のおもしろさに気づき、軽やかで、庶民的で、思わずクスッと笑ってしまう三字熟語にハマったという。
西門さんは、四字熟語は「上から目線で教訓めいた言葉」が多いのに対し、三字熟語は「軽やかで、庶民的で、思わずクスッと笑ってしまうような言葉がたくさんある」と言う。
つまり、「三字熟語」は、
ちょっと変わっている。だから、面白い。
のです。
三字熟語を知ることで、語彙力が高まる。すると、理解力や判断力、論理力といった、人間としての基礎的な素養がつくという。そして、「人生が豊かになり、毎日が楽しくなる」とも。仲間や家族と一緒に、「これ読める?」と、クイズを出し合うのも楽しい。ウン十年も日本人をやってきたのに、日本語にはまだまだ知らないことがたくさんあると気づかされる。楽しみながら教養を深められる一冊。
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