ある晩、著者のもとに一通のメッセージが届いた。
「APDで悩む当事者たちのことを書いてくれませんか?」
近年注目を集める「聞き取り」にまつわる困難「APD/LiD」を取り上げたノンフィクション『隣の聞き取れないひと APD/LiDをめぐる聴き取りの記録』(翔泳社)が、12月12日に発売された。
「APD(聴覚情報処理障害)/LiD(聞き取り困難)」とは、聴力には異常がないにもかかわらず、うるさい場所や複数人が集まる場などでは相手の言葉が聞き取れなくなってしまう困難のこと。
BGMが流れているカフェで音楽と店員や友人の声が同じボリュームで混じり合い、会話がうまくできなくなってしまったり、会議など話し手が次々と切り替わる場面で聞き取れなくなったりする。そのため、人間関係が壊れたり、仕事を辞めざるを得ない状況に追い込まれてしまう――。そうした当事者が多く存在している。
昨年より、国内でもAPDの大規模な研究・調査が始まった。ただ、認知度はまだ低く、その悩みや訴えはなかなか理解されていないという。
本書は、CODA(コーダ/聞こえない親に育てられた、聞こえる子ども)としてマイノリティ経験のある著者が、APDの当事者や支援者、研究者やメディアなどへ、丁寧な聴き取りを行って執筆したルポルタージュ。
「APDで悩む当事者たちのことを書いてほしい」――。ある晩、著者のもとに届いたメッセージは、日本国内では限られたAPDについて診察できる医師からのものだった。それをきっかけに、APD当事者会の取材協力も得て、多くの当事者や専門家、メディアなどへの取材を重ねる中で、当事者の生きづらさ、葛藤、社会の中で孤立した状況がわかってきたという。
本書は「APD/LiD」をめぐる聴き取りを通して、「誰一人取り残さない社会」の実現に向けて求められる変化を問う1冊。
■目次
第一章 聞こえるのに、聞き取れない
「自分が悪いんやな」と思っていた/失われていく居場所/うちの子を障害者にしないで/障害って、なんだろう/etc
第二章 治療法がないなかで
感じの悪い美容師/子どもには同じ思いをさせたくない/研究者の葛藤/APD児を育てる親の会/「配慮」があれば、それでよいのか?/両親は死んだと思っていた/etc
第三章 「名前がつく」ということ
ぼくの世界がひらけたとき/布団のなかでひとり泣いた日/保護者への手紙/社会って、あんまりやさしくない/etc
第四章 社会に働きかける当事者
「共感」だけで終わらせたくない/ユーチューバーになったわけ/出版社から声がかかるまで/当事者のジレンマ/etc
第五章 当事者の隣で
第一人者の20年/NHKの担当者/「あ、ごめん」はいらない/社会が変わる姿を見せていきたい/テクノロジーだけでは足りない/「障害」と「困難」
■五十嵐大さんプロフィール
いがらし・だい/1983年、宮城県出身。元ヤクザの祖父、宗教信者の祖母、耳の聴こえない両親のもとで育つ。高校卒業後上京し、ライター業界へ。2015年よりフリーライターとして活躍。著書に、家族との複雑な関係を描いたエッセイ『しくじり家族』(CCCメディアハウス)、コーダとしての体験を綴った『ろうの両親から生まれたぼくが聴こえる世界と聴こえない世界を行き来して考えた30のこと』(幻冬舎)など。2022年、『エフィラは泳ぎ出せない』(東京創元社)で小説家デビュー。
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