7月25日発売「AERA(アエラ)2022年8月1日号」(朝日新聞出版)の巻頭特集は、「安倍元首相銃撃事件」を総力取材。悲惨な事件をどう捉えればいいのか、専門家による分析で、事件の背景にある「社会の闇」を読み解いている。
山上徹也容疑者(44)は、奈良市内で7月8日、参議院選挙の応援演説中の安倍晋三元首相を銃殺した。当初は事件を「政治テロ」「民主主義への挑戦」とみなす声もあったが、その後の供述などから、母親の新興宗教への献金など経済的困窮が背景にあったことがわかってきた。
格差研究が専門の早稲田大学人間科学学術院・橋本健二教授によれば、山上容疑者はいわゆる「氷河期世代」の1人だったという。1980年生まれで、99年に高校を卒業した山上容疑者が社会に出るために職を探していた時期は、99年から01年頃にかけてだったと考えられるが、この時期、若者の就職事情は最悪だった。
「最悪の時代に社会に出た、と言えます。 93年から07年頃までがいわゆる『就職氷河期世代』。中でも金融危機後の、99年から04年までに学校を出た世代の就職状況は最悪でした。(中略)平均年収も他の世代と比べて極めて低く、厳しい世代です」(橋本教授)
母親の新興宗教への献金による貧困や、自らの自殺未遂、兄の自殺など悲惨な環境の中で、山上容疑者は2002年に任期付きで入隊した海上自衛隊をやめた後、アルバイトや派遣社員など複数の非正規職として働き続けた。たまたま「最悪の時代」に社会に出て非正規雇用になり、正社員には「這い上がれない」。橋本教授は、そんな環境が事件に影響を与えたと考えている。
「近年起きている凄惨な事件の犯人には、山上容疑者に近い世代が多いんです。秋葉原通り魔事件を起こした元派遣社員の彼(82年生まれ)しかり、京都アニメーション放火事件の彼(78年生まれ) もしかり。事件の背景に、この世代に特に顕著である『這い上がれない悲惨さ』があるのは間違いないと感じます」(橋本教授)
生活困窮者を中心に支援活動を行うNPO法人ほっとプラス理事の藤田孝典さんは、山上容疑者の苦しい環境に、「家族以外の、福祉や社会保障などのセーフティーネットが極めて弱い」という日本社会の「家族主義」を見出している。報道によれば、山上容疑者の母親は90年に入信して献金を始め、その総計は1億円に上る。
「本来払うべき教育費の方に回せないという点一つをとっても、彼の家族は機能不全だった。ただ、そういう『親がきちんと子どもに向き合えていない』環境であっても、日本の社会は『家族頼み』。これがいちばんの課題なんです」(藤田さん)
また、社会学者の土井隆義・筑波大学教授は、山上容疑者のものとされるツイッターに書かれた「何故かこの社会は最も愛される必要のある脱落者は最も愛されないようにできている」という言葉に強い印象を受けたという。山上容疑者は、うまく人との関係を紡げない「関係の貧困」を抱えていたのでは、と土井教授は指摘する。
ほか、旧統一教会の問題について元信者に取材した記事や、池上彰さんなど有識者の意見をまとめた記事も。この事件と今の日本について多角的に考える一助になる特集となっている。
8月1日号の表紙は、オリジナルミュージカル「流星の音色」で主演兼音楽を担当するSixTONESの京本大我さん。インタビューでは、演じることと曲を生み出すことの「二刀流」を成し遂げることについての考えや、間もなく公開の映画「TANG タング」で共演した事務所の先輩である二宮和也さんとのエピソードなどを披露している。
また、「プロ転向」を表明した羽生結弦選手の再出発についても詳報している。会見の言葉を約6600字で丁寧に収録。「引退」という言葉は使わず、「プロのアスリート」という言葉を使った羽生選手の「決意」を、羽生選手を長く取材してきたフィギュアライターが分析する。
さらに、前号から始まった連載「松下洸平 じゅうにんといろ」は、ドラマ「最愛」で共演した井浦新さんとの対談の2回目。俳優業にとどまらない、二人のアーティスティックな活動について話が広がります。そんななか、松下さんは「僕は今、自分について考える余裕がなくなっているかもしれない」とポロリ。「余裕」をめぐる二人の深い話が続く、二人の信頼関係が詰まった対談となっている。
今号にはこのほか、以下のような記事を掲載している。
コロナ感染最多更新 BA.5は免疫すり抜け最強の感染力
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