「こども時代は本当に短いものです。長い人生のほんのひととき。なのにプリンのカラメルソースみたいに他の部分とはちがう特別な存在です」――。
近年、『スナックキズツキ』(主演 原田知世)や『僕の姉ちゃん』(主演 黒木華)などが相次いでドラマ化されたことでも話題の益田ミリさん。
6月15日に刊行される『小さいわたし』(ポプラ社)は、益田さんの4年半ぶりとなる書き下ろしエッセイ。自身の「短くて特別なこども時代」を、こども目線で描いている。みずみずしく、ユニークで、読んでいてなつかしい感じがする。
本書を紹介したトピックス「短いこども時代の思い出。『小さいわたし』はこんな毎日を生きていた。」はこちら。
BOOKウォッチでは、こども時代の「かけがえのない一瞬」を切り取った57のエピソードから、【試し読み】をお届けしてきた(全4回)。
いよいよラストとなる4回目は、「たこあげ」。おとなはありえないと思うことも、こどもは本気で心配したり怖がったりするもの。そこから膨らむ想像力がおもしろい。
(以下、本文より)
たこあげ
パパとたこあげをした。たこはどんどん高く上がっていった。もう見えないくらい高い。
「持ってて」
パパがわたしにたこの糸をわたした。パパがしゃがんでくつひもを結んでいるとき、わたしはぐいぐいたこに引っぱられた。糸を持っていた両手がバンザイになって、それからつま先がいっしゅん、地面から浮いた。
「パパ! わたしが飛んでいっちゃうよ!」
「大丈夫、飛んでいかないよ」
パパは笑ってたこの糸を持った。
帰り道、
「さっきさ、空に浮いた」
パパに言っても信じてくれなかった。
夜、ふとんに入ってからもう一度考えた。わたしが本当に飛んでいったらパパはおどろいただろう。近所の子たちもきっとおどろいた。おどろいているみんなを想像したら楽しくなった。
小学校の体育館。かまぼこみたいなまあるい屋根。空から見たらどんな形なのか知りたかった。
見るもの聞くものすべてがはじめて。おとなになって振り返ると、いろいろな日があったけど、それでもキラキラして見える。こども時代はそんなものかもしれない。「短くて特別なこども時代」に戻りたい。本書は、そんなおとな心をくすぐる作品。
■益田ミリさんプロフィール
1969年大阪府生まれ。イラストレーター。主な著書に、エッセイ『おとな小学生』(ポプラ社)、『しあわせしりとり』(ミシマ社)、『永遠のおでかけ』(毎日新聞出版)、『小さいコトが気になります』(筑摩書房)他、漫画『すーちゃん』(幻冬舎)、『沢村さん家のこんな毎日』(文藝春秋)、『マリコ、うまくいくよ』(新潮社)、『ミウラさんの友達』(マガジンハウス)、『泣き虫チエ子さん』(集英社)、『お茶の時間』(講談社)、『こはる日記』(KADOKAWA)ほか、絵本『はやくはやくっていわないで』(ミシマ社、絵・平澤一平)などがある。
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