「おとなになると今日のことを忘れてしまうのかな。そうだとしたら、すごくいやだ。かけがえのない一瞬を切り取った、宝物のような春夏秋冬」
益田ミリさんの『小さいわたし』(ポプラ社)が6月15日に刊行される。自身のこども時代の思い出を、こども目線で描いた4年半ぶりの書き下ろしエッセイ。
「入学式に行きたくない」「線香花火」「キンモクセイ」「サンタさんの家」......など、四季を感じる57のエピソードと27のカラーイラストを収録。こどもの繊細な気持ちを、丁寧に、みずみずしくつづっている。
「心配していたとおり、おとなになるにつれてこどものわたしは遠くなっていきました。いろんなできごとを忘れてしまっているのです。さみしいなと思います。けれども不思議なことなのですが、楽しかったという気持ちだけが、突然よみがえってくることがあるんです。(中略)いっしょうけんめい遊んでくれてありがとう。キミのおかげで、おとなになってもときどき幸せな気持ちになれるんだよ。会いにいけるなら、こどものわたしにお礼を言いたい。これは短いこども時代の思い出をもとにした物語です」
はじめに、いくつかのエピソードを少しずつ紹介しよう。
・小学校の入学式に、新しいワンピースを着て行きたくない。(「入学式に行きたくない」)
・横断歩道の白しか踏んじゃいけない。灰色の道路の部分は「地獄」という遊び。(「横断歩道のじごく」)
・スイカの種を食べると、おへそから芽が出るって本当?(「おへその心配」)
・「ねこふんじゃった」を弾きたくてピアノを習いはじめたのに、音符を書く練習ばかり。(「ピアノ教室」)
・口で言うおしゃべりと、頭の中のおしゃべりがある。みんなも同じ? それとも、わたしはヘンなの?(「ふたつのおしゃべり」)
・学校で人気者になれるから、ちょっとした切り傷でもほうたいを巻いてほしい。(「ほうたい」)
発想がおもしろかったのが、「仲良しのひらがな」。
国語の授業でひらがなを習いはじめた頃、「ひらがなには似ている者同士がいる」ことを発見したわたし。たとえば「き」と「さ」、「は」と「ほ」、「う」と「ら」など、「似ている同士は仲良しのお友達」に見えた。
心配だったのが、「み」や「ふ」や「ゆ」や「や」や「を」など、「誰とも似ていない子」がいたこと。
「ひとりぼっちのひらがなは、とてもさみしそうに見えた。似ていない子たちは、似ていない子たち同士で仲良しなんだと思うことにしたら安心した」
小学校1年生で出会った、「お兄さん」のような担任の先生。益田さんは先生のことが大好きで、ちょこちょこ先生にまつわるエピソードが出てくる。その1つが、「絵の具をまぜてごらん」。
図工の時間。自分で作った色でマルとバツと三角を描いて、先生に見せにいくことになった。いろんな色のマル、バツ、三角が描けた。先生に早く見てもらいたかった。
すると、後ろの子が「あー、まちがってる!」「色は3つだけなんだよ!」と言った。先生が「3つの色」と言ったのを、わたしは聞いていなかった。
「みんなと違うことをしてしまった。まちがえたんだ。涙が出てきた。悲しい気持ちで先生に見せると、『おお、きれいだなぁ』と先生は言った。そう? 先生もきれいと思った? わたしもきれいと思ってたんだよ! わたしは心の中でうれしくなった」
「こども時代は本当に短いものです。長い人生のほんのひととき。なのにプリンのカラメルソースみたいに他の部分とはちがう特別な存在です。人がいきなりおとなに生まれるのだとしたら味気ないに違いありません」
こどもなりの心配や秘密。こどもならではの、ちょっとした願いごと。おとなになると、これはこういうものだと結論づけて、もう不思議に思わなくなるようなこと。
あぁ、こんなことあったなぁ、こんな子いたなぁ......と、「わたし」に小さい頃の自分を重ねて読んだ。タイムスリップするような、自分のなかに残っているこどもの部分が呼び覚まされるような作品。
■益田ミリさんプロフィール
1969年大阪府生まれ。イラストレーター。主な著書にエッセイ『おとな小学生』(ポプラ社)、『しあわせしりとり』(ミシマ社)、『永遠のおでかけ』(毎日新聞出版)、『小さいコトが気になります』(筑摩書房)他、漫画『すーちゃん』(幻冬舎)、『沢村さん家のこんな毎日』(文藝春秋)、『マリコ、うまくいくよ』(新潮社)、『ミウラさんの友達』(マガジンハウス)、『泣き虫チエ子さん』(集英社)、『お茶の時間』(講談社)、『こはる日記』(KADOKAWA)など。絵本『はやくはやくっていわないで』(ミシマ社、絵・平澤一平)などがある。
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