「こども時代は本当に短いものです。長い人生のほんのひととき。なのにプリンのカラメルソースみたいに他の部分とはちがう特別な存在です」――。
近年、『スナックキズツキ』(主演 原田知世)や『僕の姉ちゃん』(主演 黒木華)などが相次いでドラマ化されたことでも話題の益田ミリさん。
本日刊行された『小さいわたし』(ポプラ社)は、益田さんの4年半ぶりとなる書き下ろしエッセイ。自身の「短くて特別なこども時代」を、こども目線で描いている。みずみずしく、ユニークで、読んでいてなつかしい感じがする。
本書を紹介したトピックス「短いこども時代の思い出。『小さいわたし』はこんな毎日を生きていた。」はこちら。
BOOKウォッチでは、こども時代のかけがえのない一瞬を切り取った57のエピソードから、4つのエピソードを【試し読み】でお届け(全4回)。
3回目は「くじ引き」。どんな先生と出会うかで、その後の学校生活はけっこうちがってくる。ここに登場するのは、言葉も眼差しもひっくるめて、すてきな先生である。
(以下、本文より)
くじ引き
お楽しみ会でくじ引きをすることになった。当たりはたったひとつだけ。
「中身はお楽しみだよ」
先生が言った。
なにが入っているのかな?
ひみつなのがおもしろいと思った。
「前にくじを引きにおいで」
みんないっせいに教室の前に走っていった。
あっと言う間に長い列ができた。わたしは遅れて最後になってしまった。先生のいるところまでうんと遠い。
きっと、もう、くじなんか当たりっこない!
鼻の奥がツンとした。ツンとしたらなみだが出るんだ。わたしはなみだが出ないように自分のうわばきをじっと見た。
そうしたら先生のくつが見えた。先生がわたしの前に立っていた。先生はわたしの顔を見ていた。そしてみんなの前で言った。
「最後に並んでえらかったな!」
先生、わたしね、わざと最後に並んだんじゃないんだ。
でも、そのことは内緒にしておいた。代わりに大きな声で「うん!」 と返事した。
見るもの聞くものすべてがはじめて。おとなになって振り返ると、いろいろな日があったけど、それでもキラキラして見える。こども時代はそんなものかもしれない。【試し読み】4回目「たこあげ」もお楽しみに。
■益田ミリさんプロフィール
1969年大阪府生まれ。イラストレーター。主な著書に、エッセイ『おとな小学生』(ポプラ社)、『しあわせしりとり』(ミシマ社)、『永遠のおでかけ』(毎日新聞出版)、『小さいコトが気になります』(筑摩書房)他、漫画『すーちゃん』(幻冬舎)、『沢村さん家のこんな毎日』(文藝春秋)、『マリコ、うまくいくよ』(新潮社)、『ミウラさんの友達』(マガジンハウス)、『泣き虫チエ子さん』(集英社)、『お茶の時間』(講談社)、『こはる日記』(KADOKAWA)ほか、絵本『はやくはやくっていわないで』(ミシマ社、絵・平澤一平)などがある。
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