ぼくは34歳、写真家をしている。
ちょうど1ヶ月前に多発性骨髄腫という聞きなれない病名を診断された。血液のがんだ。治すことは現在の医療では不可能。医師には平均して3年の余命と言われた。がーん。
2017年、治療不可能ながんを宣告された写真家・幡野広志さんは、翌年から妻と子へのラブレターを書き始めた。子育て情報サイト「ninaru ポッケ」で連載されている「僕は癌になった。妻と子へのラブレター。」の、2018年2月から2022年2月までの48回を一冊にまとめた『ラブレター』(ネコノス合同会社)が、2022年7月28日に発売される。現在各書店、オンラインショップで予約受付中だ。
「もしも過去に戻れるボタンがあったら押しますか?」と、知らない人にSNSのメッセージで聞かれた。
ぼくは押さない。今が一番幸せだから。
余命を宣告されて、幡野さんが感じたこと、考えたこと、伝えたいこと。この本におさめられているのは、妻=「きみ」と息子=「優くん」にあてた幡野さんのラブレターだ。"がん患者と家族"と聞くと過剰に泣ける演出がイメージされがちだが、幡野さんの手紙はごく飾りけのない言葉で、地に足のついた、丹念な思考でつづられていく。
ぼくのリュックを成長した優くんに渡すときに、この手紙のことを話してあげてほしい。きっと優くんもぼくがどんな人間だったかを知りたいはずだから。
ただし絶対に苦労話にしないでね、これは約束してほしい。思春期の子どもにとって親の苦労話ほどつまらないものはない。
幡野さんが繰り返し伝えるのは、「家族のありかたは自分たちで決めよう」ということ。時間に限りがあるからこそ、他人の声は聞き流して、自分たち家族がやりたいことを、やりたいように。そんな価値観が言葉の端々に表れている。
"子育てはこれからが大変よぉ~"とか、子どものためと称して勝手なことを言ってくる親族や先輩風をピューピュー吹かせる人たちがいるけど、これからどんどん楽になっていくとぼくはおもいます。
首も据わっていなくて、ミルクしか飲まない存在だったのが、いまでは自分で座って、スプーンを使って味噌汁のナメコをすくって食べています。成長って感動的ですよね。
うちの子育てはきっと甘いのだ、でも甘くていいとおもっている。
病気があることがわかってから数日後、公園で落ち葉まみれになって遊ぶ優くんときみの写真を撮ったとき、ぼくのいない世界にふたりがいるように感じてしまい、じつはぼく泣いていたんです。
カメラってとても便利で、涙を隠せるしアングルを探すふりしてその場から離れることもできるから、きっときみにはバレなかったけどいまならいえる秘密です。
また書きます。
実直な言葉からも、幡野さんの撮った「きみ」と「優くん」の写真からも、幡野さんが2人に向ける視線のあたたかみが伝わってくる。
2017年から5年が経った今、幡野さんはまだその手でラブレターを書き、連載は続いている。
人生が限られているのは、がん患者だけではない。私たちは誰もが限られた時間を生きている。いつか終わりが来るからこそ、大切な人との今を大事に、決して後悔しないように。幡野さんの手紙は「きみ」と「優くん」への個人的なメッセージでありながら、すべての読者に大事なことを投げかけている。
本書は通常の書籍に加え、「特装版」の刊行も予定されている。"手紙"の本ならではの封筒状になった表紙に、幡野さんによるオリジナル・プリント(写真)が封入される。
*特装版は初回限定。ネコノスのECサイト、東京都渋谷区の渋谷PARCO 8階「ほぼ日曜日」で開催される「『ラブレター』発売記念 幡野広志のことばと写真展 family」会場、および一部の書店のみでの販売となります。
また本書の刊行にともない、以下のイベントも開催される。
『ラブレター』発売記念 幡野広志のことばと写真展 family 場 所:ほぼ日曜日(渋谷PARCO8F 東京都渋谷区宇田川町15-1) 期 間:2022年7月16日(土)- 8月21日(日) 時 間:11:00~20:00 入場料:600円(予定) URL: https://www.1101.com/hobonichiyobi/
■幡野広志(はたの・ひろし)さんプロフィール
1983年 東京生まれ。写真家。元狩猟家、血液がん患者。2004年日本写真芸術専門学校中退。2010年広告写真家高崎勉氏に師事。2011年独立、結婚。2012年狩猟免許取得。2016年息子誕生。2017年多発性骨髄腫を発病。著書に『ぼくたちが選べなかったことを、選びなおすために。』(ポプラ社)、『写真集』(ほぼ日)、『ぼくが子どものころ、ほしかった親になる。』(PHP)、『なんで僕に聞くんだろう。』『他人の悩みはひとごと、自分の悩みはおおごと。』(ともに幻冬舎)がある。
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