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偏差値では測れない「名門校」の真価とは。

ルポ名門校

 男女御三家、筑駒、東海、灘、早慶、浦和一女、渋幕、修猷館......「その校風にはわけがある」。

 おおたとしまささんの『ルポ名門校 「進学校」との違いは何か?』(ちくま新書)は、旧制中学、藩校、女学校出身の伝統校から戦後生まれの新興校まで全国30校を取材し、名門校に棲む「家付き酵母」の正体に迫る1冊。

 いい味噌や醤油をつくる昔ながらの蔵元に棲みついている「家付き酵母」。長い年月をかけてそこに棲みつき、そこでしか再現できない独特の「風味」を加えるという。

 著者はこれを学校に置き換えている。生徒は毎年入れ替わり、一人一人違う。それでも、同じ学校の生徒には共通する「らしさ」が宿る。個性的な「らしさ」を醸し出す学校を、人々は「名門校」と呼ぶ――。

 では、「らしさ」とは何か。どうやって「らしさ」が身につくのか。

 「名門校とは何か。それを少しでも浮き彫りにしようとするのが本書の狙いである。(中略)それぞれの名門校に受け継がれる文脈の壮大さ奥深さそして人間臭さを知ってしまうと、偏差値や進学実績といった瞬間的かつ一面的な基準で学校を論ずる無意味さや、場当たり的な教育改革議論に対する違和感あるいは嫌悪感から逃れられなくなってしまうかもしれないので用心されたい」

目を良くするところ

 日本全国の名門校を、それぞれの学校が設立された時代背景、土地柄、歴史を踏まえて紹介している。ただ、名門校と呼ばれる学校はたくさん存在するため、巻末付録として、各時代、各地域で名を轟かす学校が登場する保存版の各種ランキングを収録。

 ここでは、本書のタイトルにもなっている「終章 進学校と名門校は何が違うのか?」の一部を紹介しよう。

 「名門校とは何か?」とあるが、じつは「きっとこの問いに正解はない」という。そのうえで、名門校と呼ばれる学校に共通する特徴として「自由」「ノブレス・オブリージュ」「反骨精神」を挙げている。

 「自由」とは、規律がゆるいことではなく、「自ら決めた方向へ向かって自らの力で歩む自由」。ときに苦痛を感じつつ、学ぶことで自由になっていく。自らの生き方を決定し、遂行する力を身につけていく。ほとんどの名門校で教養主義を謳っているが、教養=単なる博識とは違うという。

 「物事の一瞬・一面だけを見るのではなく、物事の全体を見ると同時に細部までを見ることができ、かつ、時間的文脈もとらえることができるかどうか。『全体を見る鳥の目、細部を見る虫の目、流れを見る魚の目』のそれぞれを働かせることができるかどうか」

一番になれない環境

 「ノブレス・オブリージュ」とは、フランス語で「恵まれた者はその恵まれた環境を最大限に活かし、自分の能力を最大限に開発する義務がある。そうして得た大きな力を社会に還元することが、恵まれた者の使命である」という意味。

 名門校には、「ノブレス・オブリージュ」が生徒の心に染み込んでいくしくみがあるという。それは「一番になれない環境」。地元の学校では一番の成績だったのに、名門校の教室には自分と同じような生徒がごろごろいて、ショックを受ける生徒も。しかし、同時に気づく。

 「ひとにはそれぞれに魅力があるということに。それぞれの魅力を持ち寄れば、自分たちは最強のチームになれるということに。そこに仲間に対する誇りと信頼、共同体意識が生まれる。お互いを認め合い、それぞれの自己肯定感が向上する」

異端的リーダーを育てる

 そして「反骨精神」。開成、麻布、済々黌は時代の狭間で辛酸をなめた者がつくり、良妻賢母思想へのアンチテーゼとして生まれた女学校も多く、地方では中央集権的な権力構造への反発心が公立名門校の底力になっていることもあるという。

 「現行社会における優等生ではないリーダーとしての役割を期待されている。それが新しい時代を切り拓き、彼らが正統とされたとき、社会はまたひとつ新しい階段を上ったことになるのである。一定数の異端的リーダーを育てることも、名門校の社会的役割のひとつである気がする」
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 以上は「いい学校教育の前提条件」ともいえるとして、最後に「名門校が名門校になるためのさらなる条件」、そして「名門校に棲みつく家付き酵母の正体」まで突き詰めて考察している。

 本書は「名門校を並べて品評会」をするものでも、「名門校ガイドブック」でもない。学校名、偏差値、進学実績ではないところにある「本質的な価値」を知り、「いい学校教育」とはこういうものかと、たいへんためになる。名門校に入る・入らないにかかわらず、ぜひ読んでおきたい1冊。

■目次

序章 日比谷高校の悲劇
第1章 旧制中学からの系譜――開成、東海、麻布、浦和、済々黌
第2章 藩校からの系譜――米沢興譲館、修猷館、鶴丸、修道
第3章 女学校からの系譜――女子学院、雙葉、神戸女学院、浦和第一女子
第4章 大学予科・師範学校からの系譜――慶應、早大学院、お茶の水、筑駒
第5章 大正・昭和初期生まれの学校――武蔵、桜蔭、東大寺、灘
第6章 戦後生まれの星――栄光、ラ・サール、駒東、聖光、渋幕
第7章 学校改革という決断――海城、豊島岡、鷗友、堀川
終章 進学校と名門校は何が違うのか?
【資料編】
東大+京大+国公立大医学部医学科 合計合格者数/合格率 高校ランキング
東大/京大/国公立大医学部医学科 合計合格者数 高校ランキング
旧七帝国大学 年代別平均合格者数 高校ランキング
47都道府県別 高校入試偏差値ランキング

 本書は『名門校とは何か? 人生を変える学舎の条件』(朝日新書、2015年)の改訂版。旧版刊行後に行った新たな取材の成果や最新のデータも増補された。


■おおたとしまささんプロフィール

 1973年東京都生まれ。教育ジャーナリスト。麻布中学校・高等学校卒業、東京外国語大学外国語学部英米語学科中退、上智大学外国語学部英語学科卒業。30歳で株式会社リクルートから独立後、数々の育児誌・教育誌の編集にかかわる。育児や教育の現場を丹念に取材し斬新な切り口で考察する筆致に定評がある。中高の教員免許をもち、私立小学校での教員経験、心理カウンセラーとしての活動経験もある。全国紙から女性誌、ラジオ、テレビまで幅広いメディアで取材成果を発信している。著書は、『ルポ塾歴社会』(幻冬舎新書)、『ルポ教育虐待』(ディスカヴァー携書)、『ルポ森のようちえん』(集英社新書)、『なぜ中学受験するのか?』(光文社新書)など70冊以上がある。


※画像提供:筑摩書房

 
  • 書名 ルポ名門校
  • サブタイトル「進学校」との違いは何か?
  • 監修・編集・著者名おおた としまさ 著
  • 出版社名筑摩書房
  • 出版年月日2022年4月10日
  • 定価1,100円(税込)
  • 判型・ページ数新書判・336ページ
  • ISBN9784480074713

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