「やみくもに怖がるのはそろそろやめて、ウイルスを体系的に理解しよう!」
東京大学医科学研究所感染症国際研究センター長・川口寧(かわぐち やすし)さん監修の『感染症時代の新教養「ウイルス」入門』(実務教育出版)は、ウイルスの「正体」と「魅力」について、基礎知識から最新知見までくわしく紹介した1冊。
人間や社会に害を与える「悪玉的側面」ばかりが注目される一方、ウイルスにはさまざまな「善玉的側面」があることが、近年わかってきたという。
「本書を読んでウイルスや感染症についての知識を深めていただき、ウイルスをただ単に怖がるだけでなく、興味を持ってともに生きていくことを考えてもらえればと思います」
本書は、ウイルス感染症が引き起こす社会現象、社会変化が引き起こすウイルス感染症、感染することで宿主に益をもたらす善玉ウイルス、調教ウイルスによる病気の治療など、ウイルスのあまり知られていない側面にスポットを当てている。
ウイルスというと、新型コロナウイルスを真っ先に思い浮かべるが、それ以外にも、インフルエンザウイルス、ヒト免疫不全ウイルスなど、感染症を引き起こすさまざまな病原性ウイルスが登場する。
■Contents
第1章 人類がウイルスを発見するまで
第2章 ウイルスの正体に迫る
第3章 ウイルスが病気を起こすしくみ
第4章 ウイルスと生体の激しい攻防
第5章 感染症を起こすウイルスたちの素顔
第6章 動物・植物・細菌に感染するウイルス
第7章 ウイルスとともに生きる私たち
すっかりおなじみになった「パンデミック」という言葉。第5章にこんな気になることが書かれていた。
2020年10月、「生物多様性及び生態系サービスに関する政府間科学政策プラットフォーム(IPBES)」は、新型コロナウイルスのように「動物から人に感染する人獣共通感染症の危険性」を指摘する報告書を公表。それによると......
「哺乳類や鳥類には未知のウイルスが170万種あり、そのうち最大で約83万種が人間に感染する可能性があるといいます。人獣共通感染症はこれまでに200種類以上が確認されていて、人間の感染症の約6割を占めるとされています。そして、毎年5つ以上の新しい人獣共通感染症が発生していると報告書は指摘しています」
「人獣共通感染症」が増える要因に、野生生物の取引や森林破壊の拡大など、経済活動による開発の影響を挙げている。生物の多様性を誇る豊かな森林は、未知の病原体の宝庫。野生動物と人間の距離が近づくほど、新たなパンデミックをもたらすウイルスが忍び寄ってくるという。
第7章では「哺乳類の胎盤はウイルスが作った」「がん細胞だけに感染するウイルスを作る」など、ウイルスの「善玉的側面」を紹介している。ここでは、「ウイルスは他の病気を防いでくれる?」を見てみよう。
ウイルスが宿主の細胞に感染すると、宿主はウイルスを異物と認識し、免疫機能を活性化させて攻撃。最終的にウイルスを体内から排除する。
例外として、ヘルペスウイルスには「感染した宿主の細胞に一生とどまり続ける」特徴があるという。人間に感染するヒトヘルペスウイルスは9種類。一生......とはショッキングだが、全人類の約9割が、何らかのヒトヘルペスウイルスを複数種類持っているのだとか。
「ヘルペスウイルスは宿主の細胞内に終生とどまり、時々活性化してさまざまな病気の症状を起こすので、そのたびに宿主の免疫機能が活性化されます。その結果、免疫機能が鍛えられ、宿主に何らかの恩恵がもたらされている可能性があるのです」
そもそも人体は、30兆個とも60兆個ともいわれる自分の細胞だけでなく、それより多い細菌「常在細菌叢(じょうざいさいきんそう)」と、それよりさらに多い数百兆のウイルスで構成されているという。
「自分の細胞、よそものの細胞、そして細胞ですらないミクロの存在、それらが集まって1つの個体のように振る舞うのが人間であり、すべての生物の真の姿なのです」
地球上に存在すると推定されているウイルス粒子の数は、なんと10の31乗個。パンデミックはいつやって来るか、どんなウイルスによるものか、それはわからない。ぜひ、「私の一部」であるウイルスの「悪玉」と「善玉」の両面に目を向けたい。
■川口寧さんプロフィール
1967年東京生まれ。東京大学医科学研究所感染症国際研究センター長。同研究所感染・免疫部門長、同研究所アジア感染症研究拠点長。東京大学大学院博士課程修了、博士(獣医学)取得。専門分野はウイルス学。「ウイルスがどのように増殖し、病気を引き起こすか?」というウイルス学の根幹をなす命題に迫る戦略的基礎研究を推進する。また、ウイルスの制圧に直結する新しいワクチンや抗ウイルス剤の開発につなげる橋渡し研究も行う。2016年テルモ財団賞、18年小島三郎記念文化賞、21年野口英世記念医学賞を受賞。一般向け著書・監修書に『ひと目でわかる! ウイルス大解剖(子供の科学サイエンスブックスNEXT)』(誠文堂新光社)、『ネオウイルス学』(共著、集英社)。
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