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したい夫、したくない妻。「レス」でも良い関係は築けますか?

したいとか、したくないとかの話じゃない

 「私たち......セックスなしでも良い夫婦関係、築けないかな」

 足立紳(あだち しん)さんの『したいとか、したくないとかの話じゃない』(双葉社)は、著者自身の体験もまじえ、夫と妻の視点から「夫婦の真実」を綴ったもの。「セックスレス」をテーマに、夫婦のあり方、子育てのあり方を問いかける。

 「離婚か? 再構築か? どうなる、この二人? 妻の叫びが共感を呼ぶ令和時代の傑作家族小説」と帯にある。さらに、吹き出しには著者の妻から一言。「私も金輪際、お前とはしたくねえよ」――。

 ダメ夫に愛想を尽かした妻が内緒でシナリオコンクールに応募し、最優秀賞を受賞。脚本家デビューを果たし、経済的にも精神的にも自立しようとする。一方、不倫相手に捨てられた夫は久しぶりに妻を誘うが......。発達障害の疑いがある息子の子育てに、コロナ禍での不自由な生活。行き詰まった夫婦は、ついにぶつかり合う。罵声飛び交う夫婦の愛憎劇。

対照的な夫婦

 大山孝志、42歳。映画やドラマの監督や脚本家をしている。売れっ子と呼ばれたこともあったが、ここ数年、勢いが落ちている。売れない女優と1年半不倫関係にあったが、最近フラれた。

 大山恭子、37歳。パート勤め。もともと小劇場で役者をしていたが、結婚と妊娠を機に辞めた。主婦業はそれなりに楽しかったが、ずっと「小さな違和感」があった。「自分の人生はこれで終わってしまうのだろうか」と。

 3年前に脚本を書いてみようと思い立ち、黙々と書いてきた。そしてコンクールで受賞し、脚本家に。おしゃれをしてテレビ局で打ち合わせをして、いつも褒めてくれる監督に好感以上の感情をうっすらと抱いたりしている。

 落ち目の孝志と、生き生きする恭子。忙しくなった妻に代わり、息子のお迎えや夕飯の支度をする孝志だが......。不倫相手を失ったことで、「恭子を拘束したい」という気持ちが抑えられなくなっていく。

 「恭子がシナリオコンクールで受賞したと知ったとき、孝志は動揺する自分を押し殺すのに必死だった。今思い返しても自分の器が小さいことは重々承知しているつもりだったがここまでとは思わなかった」

夫とは、したくない

 恭子がコンクールで受賞してからというもの、孝志は誘いづらくなっていた。しかし、ある日、思い切ってLINEを送る。「今晩、久しぶりにしたいです。どうですか......?」。

 LINEを読んだ恭子はどう思ったか。面倒くさい。したくない。気色悪い。「......」なんぞをつけているところもまた腹が立つ。あぁ帰りたくない......と、さんざんだった。

 「そう言えば孝志は近ごろあまり求めてこない。脚本直しが始まったあたりで強めに断ってしまったから、もしかしたら傷ついているのかもしれないが、それならそれでありがたかった。もちろん恭子だってしたくなることはあるのだが、その相手は孝志じゃなかった」

 孝志の不倫と言い、恭子の態度と言い、相当ギスギスした夫婦関係であることはわかるが、むごい本音がぼろぼろ出てくる。結局、恭子からLINEの返信はなく、孝志は恐る恐る聞いてみた。以下、2人のやりとり(一部抜粋)。

孝志 「ラ、LINEって......読んだ?」
恭子 「ああ......」
孝志 「ああって......ど、どう?」
恭子 「......ごめん、したくない」

妻は何を求めているのか

 久しぶりのお願いだった。勇気を出して送ったLINEだった。受け入れてもらえず、孝志は傷ついた。一方の恭子は、勇気を出して断り、それを孝志が受け入れたのに、イライラが止まらない。これまで以上に、孝志を嫌いになってしまった。

 「孝志が自分を求めてくるのは執着なのではないか。私が忙しくなり、自分の手のひらの上からいなくなってしまいそうだから、私を求めているのではないか。少なくとも愛じゃないことは確かだろう」

 不倫するわ、すぐセックスのことばかり考えるわ、パッとしない現状に甘んじるわ......。孝志には、褒めるところがほぼ見当たらない。それでも、何を言ってもやってもイライラされ、セックスを拒まれ続けるのは、さすがに気の毒だった。

 夫婦関係はすでに破綻している気もするが、恭子は離婚したいわけではない。では、恭子は何を求めているのか。孝志とは、セックスしたくない。その意志表示の裏には、恭子自身も気づいていなかった、ある真意が潜んでいた――。

 著者自身の体験もまじえているから、いっそうリアルだ。夫婦の「セックスレス」というナイーブな領域に、真正面から斬り込んだ本作。とりわけ、ひっそりとつらい思いをしている人に読んでほしい。


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■足立紳さんプロフィール

 1972年鳥取県生まれ。日本映画学校卒業後、相米慎二監督に師事。脚本を書いた『百円の恋』が第1回「松田優作賞」を受賞。同作は日本アカデミー賞最優秀脚本賞も受賞する。『14の夜』で映画監督デビューも果たす。小説家としても活動しており、著書に『喜劇 愛妻物語』『14の夜』『弱虫日記』『それでも俺は、妻としたい』などがある。


※画像提供:双葉社



 


  • 書名 したいとか、したくないとかの話じゃない
  • 監修・編集・著者名足立 紳 著
  • 出版社名双葉社
  • 出版年月日2022年1月23日
  • 定価1,870円(税込)
  • 判型・ページ数四六判・264ページ
  • ISBN9784575244847

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