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地方のメディアだからこそできることがある!

地方メディアの逆襲

 マスメディアへの批判、不信が渦巻く中、その対象からすっぽり抜け落ちているメディアがある。いわゆる地方紙と地方テレビ局だ。地域限定のニュースが多く、他の地域からアクセスすることが難しいからだ。本書『地方メディアの逆襲』(ちくま新書)は、東京に集中する大手メディアには見過ごされがちな、それぞれの問題を丹念に取材する地方紙、地方テレビ局の報道現場と人を各地に訪ね歩き、地方からジャーナリズムを問い直すものだ。


 著者の松本創さんは、1970年、大阪府生まれ。神戸新聞記者を経て、現在はフリーランスのライター。関西を拠点に、政治・行政、都市や文化などをテーマに取材し、人物ルポやインタビュー、コラムなどを執筆している。著書に「第41回講談社本田靖春ノンフィクション賞」を受賞した『軌道 福知山線脱線事故 JR西日本を変えた闘い』(東洋経済新報社、のちに新潮文庫)をはじめ、『誰が「橋下徹」をつくったか――大阪都構想とメディアの迷走』(140B、2016年度日本ジャーナリスト会議賞受賞)、『日本人のひたむきな生き方』(講談社)、『ふたつの震災――[1・17]の神戸から[3・11]の東北へ』(西岡研介との共著、講談社)などがある。

 特色ある報道で実績のある地方メディア6社を取り上げている。本書の構成は以下の通り。

 第1章 秋田魁新報―イージス・アショア計画に迫る
 第2章 琉球新報―ファクトチェック報道の舞台裏
 第3章 毎日放送―ドキュメンタリー『映像』の系譜
 第4章 瀬戸内海放送―ある調査報道記者の歩み
 第5章 京都新聞―被害者報道を考える
 第6章 東海テレビ放送―『さよならテレビ』が問うもの

 このうち、実際に評者がアクセスした2社の報道について、紹介しよう。

 まずは、第1章の秋田魁新報から。「魁」は「さきがけ」と読む。秋田県を代表する県紙で部数は約21万部。中央、地方を通じて全国で4番目、地方紙としては2番目に古い歴史を持つ。2019年6月、秋田魁新報は、陸上配備型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」の配備にかんする防衛相の調査報告書にずさんなデータに基づく誤りがあることをスクープし、同年度の新聞協会賞に選ばれた。同紙の報道で流れが変わり、翌年6月、秋田県と山口県に配備する計画は停止された。

 この経緯についてBOOKウォッチでは、『イージス・アショアを追う』(秋田魁新報社)を紹介し、触れている。取材班キャップだった松川敦志記者(現社会部長)は、「この演習場は、うちの社屋から直線距離で1キロ余り。窓から見えるぐらい近いのに、本当に影の薄い場所で、意識したこともない。なぜ秋田に? なぜこんな市街地の近くに? というのが、最初から現在まで一貫した疑問です」と松本さんに話している。

 松川さんは朝日新聞に移籍し、沖縄勤務の経験があった。配備計画の背後にアメリカの意図があることを見抜き、防衛省の調査報告書を精査し、誤りを見つけた。地方紙→朝日→地方紙という異色の経歴が役立ったようだ。

 全国紙の地方取材網は人減らしで、取材力が衰え、「競争にならない」と松川さんは語っている。「秋田魁が報じなければ、秋田のことが世の中に伝わらない」という強い使命感があるようだ。

 秋田出身の評者は、首都圏に住むが、電子版で毎日、同紙の報道をチェックしている。ほのぼのとした地域ネタに癒されるが、イージス・アショア報道のような骨太な記事にも啓発されている。かつて同紙には地元行政と癒着した不祥事があった。それを機に古い体質は一新された。その先頭に立った前社長は、1面にイージス・アショアの配備撤回を求める社長論文を掲載し、報道を方向づけた。

 全国紙の一部に政権と癒着した動きがあるように、地方紙にも地方権力と密接な関係を持つところも少なくない。要は経営陣のスタンスだ。地方メディアにもいろいろあることを知っておいた方がいい。

 第6章で取り上げている東海テレビはドキュメンタリー番組で定評がある。2018年9月、自社を舞台とする「さよならテレビ」を放送し、翌年には映画版を公開した。評者も映画版を観た。報道機関が見せたくない視聴率へのこだわり、職場内の待遇格差などにカメラを向けた。ゼネラルプロデューサーの阿武野勝彦さんは、組織の「内部的自由」の重要性を説き、経営がジャーナリズムに介入しない取り決めが、今こそ必要だと話している。

 いくつもの賞を取っている実績が「内部的自由」を担保していると思われるが、賞のためにドキュメンタリーを撮るようなつまらないことはしたくない、とも。

 何のために作っているのか。「自分たちの伝えたいメッセージを、広く社会に見てもらうためでしょう」と答えている。

 メディアは東京だけにあるのではない。一度、地方メディアにも目を向けてみたらどうだろう。メディア志望の学生に、ぜひ読んでもらいたい1冊だ。

 BOOKウォッチでは関連で、『イージス・アショアを追う』(秋田魁新報社)、『メディアは死んでいた――検証 北朝鮮拉致報道』(産経新聞出版)、『ローカルメディアの仕事術』(学芸出版社)などを紹介済みだ。

  • 書名 地方メディアの逆襲
  • 監修・編集・著者名松本創 著
  • 出版社名筑摩書房
  • 出版年月日2021年12月10日
  • 定価946円(税込)
  • 判型・ページ数新書判・266ページ
  • ISBN9784480074454

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