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地域でメディア始めるノウハウ満載、有益なテキスト

ローカルメディアの仕事術

 ローカルメディアとは何だろう? 既存の地方紙、地方テレビ局のほか、ある地域を対象にした雑誌、フリーペーパー、イベントなどに合わせて発行される小冊子、観光客や移住者を獲得するためのキャンペーンサイトなどと本書『ローカルメディアの仕事術』(学芸出版社)は定義する。後者がいま増えている。

 編著者の影山裕樹さんは『ローカルメディアのつくりかた』(同)を2016年に出してから、地域に根ざした印刷会社、ローカル出版社、自治体、文化施設、NPOなどの関係者に出会う機会が増え、ローカルメディアの注目度に驚いたという。本書で紹介されているローカルメディアもさまざまだ。

 宮城県で20年以上発行されている月刊紙『みやぎシルバーネット』は、お年寄り向けの情報を提供している。発行人の千葉雅俊さんは、編集、デザイン、広告営業、配布まですべて一人で行っているという。

 神奈川県の真鶴半島で、宿を経営しながら出版を行う真鶴出版は、二人の移住者が始めた。ひもの引換券のついた『やさしいひもの』という本を手に、宿の宿泊客になる人もいるという。影山さんは「地方でメディアを別の業態と掛け合わせる事例は今後増えていくだろう」と指摘する。

 兵庫県豊岡市の城崎温泉で旅館の若旦那たちが立ち上げた出版NPO法人「本と温泉」は、温泉の湯につかりながら読める防水加工を施した、タオル地カバーの本、『城崎裁判』は、関西を舞台にしたエンタメ作品で知られる作家の万城目学さんに執筆を依頼した。著者の一人である幅允孝さんが、京都、大阪、奈良、滋賀を書いて、なぜ兵庫を書かないのか、その問題に決着を、と万城目さんをくどき落とした。税込1700円の本はご当地限定発売。初版の1000部は数週間で売り切れ、累計で1万部を超えたという。

 本書は前著に続く実践編で、第2章では各地でローカルメディアを運営している人たちが編集の具体的なノウハウを公開している。チーム作り、デザインの方法、取材、インタビュー、記事の書き方、写真の撮り方など、メディア歴の長い評者が読んでも参考になる記述が多い。

 ローカルメディア・ブームのさきがけとも言える『地域雑誌 谷中・根津・千駄木』、通称、谷根千(やねせん)は2009年に25年の歴史を終えた。編集部の一人で作家の森まゆみさんの「新しいものから腐っていく。だから、若い人たちはもっと歴史をやったほうが伸びるのに、と思いますね」という言葉を伝えている。

ローカルメディアにルールなし

 影山さんは本書の冒頭、ローカルメディアは地域再生に役立つかとよく聞かれるが、答えはノーだ、と書いている。また地域課題を解決するにはメディアじゃなくてもいいという事例も紹介している。しかし、その一方、「ローカルメディアにルールなんてない」とも。その地域、その人に合った、さまざまな方法があるということだ。評者は、以前ある地方で地域紙の立ち上げにかかわったことがある。ブランケット版・8ページフルカラーの週刊新聞で部数は4万。さる手法を使い、その地域世帯の約3割に無料紙を宅配というビジネスモデル。スタートから広告収入が順調で収支はとんとん。その地方の県紙が青ざめた。しかし、オーナーが無謀な有料化路線を打ち出し、たちまち頓挫。ローカルメディアこそ、志が問われるという教訓を得た。

 本書は各地でローカルメディアを興したいと考えている人に有益なテキストになるだろう。   

  • 書名 ローカルメディアの仕事術
  • サブタイトル人と地域をつなぐ8つのメソッド
  • 監修・編集・著者名影山裕樹 編著、幅允孝・多田智美・原田祐馬・原田一博・成田希・小松理虔・山崎亮 著
  • 出版社名学芸出版社
  • 出版年月日2018年5月10日
  • 定価本体2000円+税
  • 判型・ページ数四六判・249ページ
  • ISBN9784761526795
 

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