デジタル庁が発足し、新聞には毎日のように「デジタル・トランスフォーメーション」(DX)の文字が躍る。まさに一億総デジタル。良いことづくめのように語られるデジタル改革だが、本書『デジタル・ファシズム』(NHK出版)は、ちょっと待て、と注意を喚起する。私たちは「デジタル」という専制君主に率いられた、新しいファシズムに直面しているというのだ。
著者の堤未果さんは国際ジャーナリスト。ニューヨーク州立大学国際関係論学科卒。ニューヨーク市立大学大学院国際関係論学科修士号。国連、米野村證券などを経て、米国と日本の政治、経済、医療、教育、農政、公共政策、エネルギーなどをテーマに活発な執筆活動を続けている。
2008年に出した『ルポ貧困大国アメリカ』(岩波新書)は日本エッセイストクラブ賞や新書大賞を受賞。その後も『沈みゆく大国 アメリカ』(集英社新書)、『政府は必ず嘘をつく』(角川SSC新書)など多数の新書を出している。二部作、三部作という形で同じテーマの続編を刊行することも多い。それだけ読者の要望が強いということだろう。18年刊の『日本が売られる』(幻冬舎新書)は20万部のベストセラーになった。
8月末に出た本書も快調だ。すでに10万部を超えている。3年ぶりの書き下ろし。新刊を出すたびにベストセラーになる超売れっ子だ。
これまでの著作では、米国を基点に、主に海外の情報を参照しながら日本をとらえなおしてきた。今回も手法は共通している。
「コロナ禍の裏で、デジタル改革という名のもとに恐るべき『売国ビジネス』が進んでいるのをご存じだろうか?
「アマゾン、グーグル、ファーウェイをはじめ米中巨大テック資本が、行政、金融、教育という、日本の"心臓部"を狙っている」
「デジタル庁、スーパーシティ、キャッシュレス化、オンライン教育、マイナンバー...そこから浮かび上がるのは、日本が丸ごと外資に支配されるXデーが、刻々と近づいている現実だ」
「デジタル改革」で何がどう変わるのか。私たちは今この改革を、よく理解できないまま、政府によって参画を急かされているのではないか――。堤さんは冒頭でイギリスのSF作家アーサー・C・クラークの言葉を引用している。
「技術(テクノロジー)はある地点から、専門家以外には魔法と区別がつかなくなる」
今まさに「デジタル」という魔法のもとで多くの人が翻弄されているというわけだ。
前著『日本が売られる』では、主として水や農地、森、海など日本の資産がいつのまにか海外の資本によって買い進められている現状を報告していた。今回は新たに「主権」までもが盗まれようとしていると訴える。副題も「日本の資産と主権が消える」となっている。
グーグルやアマゾンなど米国の巨大テック企業「GAFAM」によって、私たちの様々な情報が収集されていることはよく知られている。加えて今年に入り、「LINE」が利用者に十分な説明がないまま、中国の関連会社から個人情報を閲覧できる状態にしていたことも暴露された。利用者が投稿した画像・動画データは韓国内のサーバーに保管されていたという。
残念ながらデジタル情報の分野で日本は立ち遅れている。何しろ、10月から始まった、中央省庁向け政府共通プラットホームのベンダー(製造・販売元)として選ばれたのは、米系のアマゾン・ウェブ・サービスだ。情報流出の恐れはないのか?
今や日本という国の「心臓部」が奪われようとしている、と本書は警告している。巻末には日本語よりも多数の英語の文献が資料として掲載されており、この方面に関心を持つ大学生や大学院生にとっても役立ちそうだ。
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