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累計87万部のベストセラー、完結。でも「続き」が読みたい...!

ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー 2

 「『ぼく』は13歳になった。そして親離れの季節がやってきた――」。

 ブレイディみかこさんの『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』(2019年、新潮社)は11の文学賞を受賞したノンフィクション作品。今年6月に文庫化され、単行本・電子書籍を含む累計は87万部を突破した。

 このたび、完結編『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー 2』(新潮社)が刊行された。初出は新潮社のPR誌「波」(2019年5月号~2020年3月号)。

 本書は前作からの「ぼく」の成長が感じられる、こんな一節ではじまる。

 人間の本質についてわたしが本当に知っているたった一つのことは、それは変わるということである。
――オスカー・ワイルド

 ライフって、そんなものでしょ。
――うちの息子

世界の縮図のような日常

 まず、前作のあらすじを紹介しておこう。

 「ぼく」は、ブレイディさんとアイルランド人の配偶者との間に生まれた息子。

 優等生の「ぼく」が通う「元・底辺中学校」は、毎日が事件の連続。人種差別丸出しの美少年に、ジェンダーに悩むサッカー小僧。時には貧富の差でギスギスしたり、アイデンティティに悩んだり......。

 「世界の縮図のような日常」を、思春期真っ只中の息子とパンクな母ちゃんは、ともに考え悩み乗り越えていく――。


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累計87万部突破『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』(画像提供:新潮社)

 そして今作でも「ぼく」の日常は騒がしく、相変わらず「世界の縮図のよう」である。

 フリーランスで働くための「ビジネス」の授業。摂食障害やドラッグについて発表する国語のテスト。男性でも女性でもない「ノンバイナリー」の教員たち。自分の歌声で人種の垣根を超えた"ソウル・クイーン"。母ちゃんの国で出会った太陽みたいな笑顔。そして大好きなじいちゃんからの手紙......。

 心を動かされる出来事を経験するたび、「ぼく」は大人への階段をひとつひとつ昇っていく――。


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完結編『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー 2』(画像提供:新潮社)

■目次
 1 うしろめたさのリサイクル学
 2 A Change is Gonna Come ―変化はやってくる―
 3 ノンバイナリーって何のこと?
 4 授けられ、委ねられたもの
 5 ここだけじゃない世界
 6 再び、母ちゃんの国にて
 7 グッド・ラックの季節
 8 君たちは社会を信じられるか
 9 「大選挙」の冬がやってきた
 10 ゆくディケイド、くるディケイド
 11 ネバーエンディング・ストーリー

俺みたいにはなるな

 ある日、息子が沈み込んだ顔で帰宅した。「数学のテストでしくじった」と言う。すると、「なんだ、これは! ジョークみたいな点数じゃないか」と配偶者が怒鳴った。

 「まるで自分が子どもの頃にめちゃくちゃ勉強したような言い方をしているこの人は何なのだろう」と著者が思ったところで、配偶者は声のボリュームを落とした。

 「(前略)俺がいまどうなっているか見てみろ。ガタが来ている体に鞭打って一晩中ダンプを運転して、スズメの涙みたいな賃金しかもらえない。(中略)頼むから、俺みたいにはなるな」

 息子はぽろぽろ涙をこぼして「(前略)言ってる父ちゃんも、言われてる僕も、悲しい」と言った。著者は息子の背中をさすりながら、「『労働者階級のもののあわれ』みたいな感覚がこの年齢でもわかっているんだな」と思った。

こんなに遠いところまで

 息子の友人・ティムの母親はシングルマザー。「ゼロ時間契約(雇用主から要請があったときだけ働く雇用契約)」で働いていたが、鬱を患って家で寝ている。大学進学を考える友人が多い中、ティムは卒業したら働くと息子に言ったという。

 「この違いは、人種とか性的指向とかそういうことではないが、ある意味それ以上に、ティムは自分と友人たちとの間に『僕とは違う』という『線引き』をしているのだ」

 「お金のある人とお金のない人の、見るからにそうだとわかる生活が無数に連なった街」を見下ろしながら、著者は思った。

 「あの街の向こうに広がる海と空は、鉄の柵なんかで囲われていないことをいつか彼に話したいと思った。だからおばちゃんだって、生まれた街からこんなに遠いところまで来れたんだよと」

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著者のブレイディみかこさん(画像提供:新潮社)

 これらはエピソードのほんの一部だが、差別、貧困、格差、ジェンダーの問題を、「ぼく」は中学生にして日常的に目の当たりにしている。よく見聞きする「多様性」という言葉の、実態を見た。

 著者のユーモラスかつ冷静な観察眼、家族と一定の距離を保った立ち位置が効いている。何回でも読んで、そして考えたくなる作品だ。帯コピーの「80万人が読んだ『一生モノの課題図書』」の意味がよくわかる。

 いよいよ「本物の思春期」に突入した「ぼく」。いつかまた何らかの形で、「ぼく」の物語の続きを読んでみたい。

 新潮社の特設ページでは、前作と今作の一部を試し読みできる。


■ブレイディみかこさんプロフィール

 ライター・コラムニスト。1965年福岡市生まれ。96年から英国ブライトン在住。2017年『子どもたちの階級闘争――ブロークン・ブリテンの無料託児所から』(みすず書房)で新潮ドキュメント賞を受賞。19年『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』(新潮社)で毎日出版文化賞特別賞、Yahoo!ニュース | 本屋大賞 ノンフィクション本大賞などを受賞。他に『ワイルドサイドをほっつき歩け――ハマータウンのおっさんたち』(筑摩書房)、『THIS IS JAPAN――英国保育士が見た日本』(新潮文庫)、『女たちのテロル』(岩波書店)、『女たちのポリティクス――台頭する世界の女性政治家たち』(幻冬舎新書)、『他者の靴を履く――アナーキック・エンパシーのすすめ』(文藝春秋)など、著書多数。


※画像提供:新潮社



 


  • 書名 ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー 2
  • 監修・編集・著者名ブレイディ みかこ 著
  • 出版社名新潮社
  • 出版年月日2021年9月15日
  • 定価1,430円(税込)
  • 判型・ページ数四六判変型・206ページ
  • ISBN9784103526827

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