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渋沢栄一が仕えた「プリンス・トクガワ」の高貴で数奇な「その後」

殿様は明治をどう生きたのか

 NHK大河ドラマ『青天を衝け』で板垣李光人(りひと)さん演じる徳川昭武(あきたけ)。第15代将軍の兄、慶喜の名代としてパリ万博に参加するため、渋沢栄一(篤太夫)ら幕府の使節団を率いて渡仏した人物だ。板垣さんの好演もあって、「プリンス・トクガワ」の高貴な横顔に魅了された人も多いのではないだろうか。

 8月23日に放送された第25回『篤太夫、帰国する』では、慶応4(1868)年、新政府からの命で帰国した一行が、激変した日本の政情に翻弄される様子が描かれた。

 気になるのは、昭武のその後だ。渋沢栄一ら、維新後に活躍した人物については多く語られるが、維新で「プリンス」ではなくなった昭武をはじめ、にわかに土地も家臣も失い支配者の立場から転落した藩主たちが明治の世をどう生きたのかは、意外と知られていない。

 歴史研究家、河合敦さんの著書、『殿様は「明治」をどう生きたのか』(扶桑社)は、そんな「元殿様」にスポットを当て、中でも波瀾万丈な人生を送った14人の生きざまを詳細に紹介している。

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ビジネスでもやり手だった元プリンス

 本書の中で昭武は、第二章「最後の将軍・徳川慶喜に翻弄された殿様」の一人として取り上げられ、「兄慶喜の身を案じた仲の良い弟」と紹介されている。

 水戸藩主徳川斉昭の十八男(!)、昭武は、兄の慶喜とは16歳違い。渡仏したのは14歳の時だった。新政府の命を受けて2年後に帰国した後、すぐに第十一代水戸藩主に就任。函館戦争への参戦、蝦夷地の開拓など自ら現地に赴き精力的に働いたが、明治4年、廃藩置県によって水戸藩が消滅。その後は藩の屋敷がある向島の小梅(現在の隅田公園)で暮らすようになった。

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徳川昭武(1853-1910)の肖像、パリ、1867年。(Wikimedia Commonsより)

 その後、陸軍少尉に任ぜられ、1年半ほど務めたが、明治9年にアメリカのフィラデルフィアで開催される万博の御用掛に自ら手を挙げ渡米。役目を終えると政府の許可を経てフランスへ。4年間の留学の合間に甥の徳川篤敬とともに中部ヨーロッパを旅行し、見聞を広げた。帰国後は牧場経営や植林事業に乗り出し、成功を収める。繊細な王子様に見えて、実は芯が強く、冒険心に富んだ「やり手」だったことが窺える。

 明治16年には30歳の若さで水戸家の当主を引退。妻を産褥熱で亡くし、失意の中、生母とともに千葉県松戸市の戸定亭へと移り住んだ。隠居後は牧場経営と植林事業に精を出し、趣味の狩猟や写真撮影、自転車などを、兄・慶喜と共に楽しんだという。明治43年、58歳で亡くなっている。

明暗分かれた元殿様の「その後」

 「なんだ、殿様ではなくなっても、ずいぶんと優雅な生活じゃないか」と思うかもしれないが、「育ちの良さ」を生かして明治に活躍したのは昭武だけではない。

 英国留学後、外交官として手腕を発揮し、元老院技官や東京府知事などさまざまな要職を歴任した徳島藩主の蜂須賀茂韶(はちすか・もちあき)や、米国留学中にキリスト教徒となり、外交官、東京府知事を歴任した岸和田藩主の岡部長職(ながもと)、英国留学後に沖縄県令となり、沖縄の近代化に尽力した米沢藩主の上杉茂憲(もちのり)など、海外経験を生かして活躍した人もいる。

 一方で、新政府の方針に不満を抱き、酒におぼれて亡くなった土佐藩主の山内容堂や、一時はみずから農業をしなければならないほど生活に困窮した請西藩主の林忠崇、朝敵の汚名を着せられ、晩年は日光東照宮の宮司となってひっそりと暮らした松平容保(かたもり)など、不遇の人生を送った元殿様も。明暗を分けたものは何だったのか。それぞれの生きざまを読むと、意外な事実が分かってくる。

 本書は2021年1月に発売されて話題になり、7月には第2弾が出版された。シリーズ累計5万部を超える異例のヒットとなっている。

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 2冊目には、徳川慶喜や安藤信正、鍋島直大(なおひろ)、細川護久(もりひさ)ら、さらに波瀾に富んだ人生を送った元殿様たちが登場している。巻末の「大名屋敷ガイド」も興味深い。土佐藩邸の上屋敷跡は東京国際フォーラム、尾張藩の中屋敷は上智大学、広島藩の下屋敷は表参道ヒルズなど、新政府に召し上げられた大名屋敷が現在どうなっているのかを知ることができる。

 元殿様たちの多様なその後を知ることで、歴史が現代とリンクする。大河ドラマもより一層楽しめそうだ。

■河合敦さんプロフィール

歴史研究家・歴史作家・多摩大学客員教授、早稲田大学非常勤講師。
1965年、東京都生まれ。青山大学文学部史学科卒業。早稲田大学大学院博士課程単位取得満期退学。歴史書籍の執筆、監修のほか、講演やテレビ出演も精力的にこなす。『早わかり日本史』(日本実業出版社)、『逆転した日本史』、『禁断の江戸史』(小社)、『渋沢栄一と岩崎弥太郎』(幻冬舎新書)など著書多数。初の小説『窮鼠の一矢』(新泉社)を2017年に上梓。


※画像提供:扶桑社


  • 書名 殿様は明治をどう生きたのか
  • 監修・編集・著者名河合 敦 著
  • 出版社名扶桑社
  • 出版年月日2021年1月10日
  • 定価880円(税込)
  • ISBN9784594086961

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