育てにくい子として生まれ、周囲に理解されることもない――。本書『ギザギザハートのアスペルガー』(リーブル出版)は、「発達障害の青年と破天荒薬剤師の記録」である。
薬剤師の臼井志乃さんは、勤務先の精神科病院で発達障害の中原慎太さん(仮名)を担当した。
本書は「アスペルガー症候群」(自閉症スペクトラム障害に含まれる)と診断された慎太さんの手記に、臼井さんの解説、二人の交流記録をまじえたもの。
手記には、慎太さんの生きづらい現実、壮絶な半生、そして時間とともに少しずつ心情が変化し、成長していく様子が綴られている。
「そんな彼をみなさんと一緒に追いかけてみようと思い、二人で作り上げた本です」
知的障害を伴わない発達障害の一種「アスペルガー症候群」。感情の起伏がなく、常に他人行儀。周囲に理解されず、人間不信に陥り、慎太さんは「気味が悪い」「悪魔」と呼ばれるほど変貌していったという。
5年前、聴覚過敏によるいらだち、不穏などが負のループに入り、臼井さんが勤務する病院に入院。薬物療法、デイケアのプログラムが奏功し、状態は改善した。
そのなかで、「誤解されやすい自分を理解してもらおう」と、慎太さんは自身の半生を書くようになる。そこには、母親のネグレクト、兄の暴力、家庭崩壊、殺意、両親の離婚、学校でのイジメ、鬱、無気力、パニック......など、これでもかというほど壮絶な内容が綴られていた。
それでも、友人、デイケアメンバーとの出会い、臼井さんらの理解を得て、慎太さんは暗いトンネルを抜け出していく――。
「あのどん底を知っていたら、何も怖くないですね。失敗したら、やり直したらいい。僕は虐待された子や自閉症スペクトラムの人間がどん底からのし上がったところを見せてやりますよ」
「苦しんでいる方に少しでも希望を与えたい」――。現在、病院を退職した臼井さんとともに、慎太さんは発達障害や精神科の患者への理解を深めてもらう活動を始めたという。
出版社のコメントによると、慎太さんは「知的でとつとつとした口調の青年」、一方の臼井さんは「ド派手なワンピースを着た聡明で破天荒な薬剤師」。一見正反対だが、二人が話す姿は自然で、遠慮のない関係性が見えるという。
「だからこそ、オブラートに包むことなく互いの心の内を見せ合うことができ、信頼関係が生まれ、本書は完成に至ったのだと思います」
臼井さんは「あとがき」にこう書いている。
「彼らは、育てにくい子どもとしてこの世に生を受けます。その子たちが自分自身を愛せるようになるには、親の愛情だけではなく、接し方のハウツーが存在すると私は思います。それによって子どもたちは弱みを克服し、強みを伸ばしていけるのです。自分自身を愛せるようになるのです」
それにしても、なんとも記憶に残るタイトル。これは「アスペルガー症候群」を抱える青年の心情が、名曲「ギザギザハートの子守唄」の歌詞と重なることからつけられたそうだ。
慎太さんの心情が赤裸々に綴られた本書は、よくわからなかったり先入観を持ってしまったりする発達障害というものを、正しく理解するのにピッタリな一冊だろう。
■臼井志乃さんプロフィール
1999年徳島文理大学薬学部卒業、調剤薬局勤務。2001年管理薬剤師として新店舗立ち上げ。05年救急病院に勤務、病棟専任薬剤師として病棟業務に携わる。12年総合病院に勤務、薬局長。医薬品安全管理責任者。17年精神科病院に勤務、薬局長。医薬品安全管理責任者。精神科薬カウンセラー。
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