男女を巡るさまざまな問題において、インターネットやバラエティ番組等、あらゆるメディアで男性はしばしば「加害者」の側として語られる。たとえばこんな風に。
「男は女を見た目でジャッジしすぎ」
「男性の上司が女性の部下を食事に誘うのはセクハラ!」
「過度に露出した女性キャラクターのポスターは、性的搾取の象徴」
しかし、男女関係で傷ついているのはいつも女性側で、男性は傷つける側なのだろうか? そんなはずはない。あまり語られてこなかった、彼らの苦しみの正体とは何だろう。
『モテないけど生きてます 苦悩する男たちの当事者研究』(青弓社)が、2020年9月28日に発売される。編集・執筆したのは「ぼくらの非モテ研究会」。男性の生きづらさを語り合う場としての、当事者研究グループである。
彼らは、幅広い分野で注目されている「当事者研究」の手法を応用し、これまであまり語られてこなかった男性たちの「痛み」「悲しみ」だけでなく、「非モテ」の現状の打開を目指す。切実さの中にも、ユーモアあふれる研究成果を蓄積しているのだ。
本書には、「女神」「ポジティブ妄想」「自爆型告白」などのユニークな観点が登場する。これらが、単純な「非モテ=恋人がいない」という考え方では捉えきれない、親からの影響、学生時代の経験、社会からの疎外感・孤独感など、多様な物語を浮かび上がらせる。
本書は、研究会を主宰する男性学研究者を中心にジェンダーやフェミニズムの概況をふまえつつ、「非モテ」をキーワードに、「語れない(語らない)」とされている男性たちの切実な語りにスポットライトを当てている。
本書の面白いところは、決して「男性によって書かれた男性のための本」ではないという点にある。「ぼくらの非モテ研究会」が行っているのは当事者「研究」であり、あくまで客観的に、男性の生きづらさというものを直視し、観察し、言語化している。
そのため、似たような立場に置かれた男性の共感を得るだけでなく、家族や交際相手など、男性との関係に悩む女性にとっても実りの多い内容だ。
たとえば、本書の第2章の中の「『非モテ』と身体嫌悪、そしてマスターベーション」という項。ここでは、「身体」をテーマにした当事者研究会が開かれた際の、参加者の「語り」がまとめられている。記者(女性)は、自身をいわゆる「非モテ」と認識している男性が、いかに自分自身の身体に対して劣等感をもっているかということを初めて知り、非常に驚いた。「異性にビジュアルを見られ、勝手に評価される」経験というのは女性だけがしているわけではないのだ。
彼らの苦悩を理解できると言うのはおこがましいかもしれない。しかし、せめて耳を傾けようとすることで、男女を隔てる断絶のようなものは少しでも埋められるのではないだろうか。
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