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陰謀論集団「Qアノン」の影響力 荒唐無稽と笑ってはいけない

Qを追う

 2022年11月に行われる米中間選挙では、共和党のトランプ前大統領が再び台風の目になりそうだ。そのトランプ氏を支持する集団として注目を浴びているのが、いわゆる「Qアノン」である。

 2年前の米大統領選挙を伝えるテレビ報道などで、「Q」をプリントしたシャツを着た人が集会に参加している場面を記憶している読者も多いだろう。だが、この「Qアノン」という集団は、本部があるわけでもなく、その創始者とも指導者とも言える「Q」についても謎に包まれている。その「Q」と、それを「信奉」する人たちの実態を追ったのが『Qを追う』(朝日新聞出版)である。朝日新聞記者の藤原学思さんが、米国駐在中の取材を中心に書いたものだ。

「米民主党は小児性愛者の集団」という主張

 はじめて存在を聞くという人のために紹介すると、「Q」と「Qアノン」の主張は、次のようなものだ。「アメリカ民主党の政治家やハリウッドスター、金融界の大物、そしてメディアの人間たちは、悪魔を崇拝したり、人肉を食べたりしている。彼らが所属する集団は小児性愛者(ペドフィリア)が集まったもので、児童売春や虐待組織を運営している」

 そして、次の主張がトランプ氏につながってくるのだが、「彼らは世界を裏で操るディープステート(影の政府、DS)であり、トランプ氏はこのDSと戦っている」というものである。 まるで、SFアニメかディストピア小説の設定のような筋書きで、にわかには信じがたい主張なのだが、アメリカの5、6人にひとりは主張を信じているという、なんとも衝撃的な調査も出ている。

 2021年1月6日には、トランプ氏が米大統領選で敗北したことを認めない人たちが、米連邦議会議事堂を占拠、襲撃する事件も起きたが、その中にも「Qアノン」の存在があったことが明らかになっており、まさに選挙結果はDSによって操作されたというのが、その主張の根底にある。

 こうした主張をインターネット上に投稿し続ける「Q」だが、その最初の投稿は2017年10月28日、英語圏最大の匿名掲示板「4chan」(4ちゃん)でなされた。藤原さんは、これを起点に、「Q」とは一体誰なのかを中心に、 Qを「信奉」する無名の人たちを意味する「Qアノン」たちの率直な声を、米国で、そして日本でも追っていく。

 なぜ日本なのか。「4ちゃん」と聞いて、ピンときた方もおられると思うが、日本の匿名掲示板「2ちゃんねる」との関係があるためなのだが、その詳細はぜひ本書で確認していただきたい。

コロナワクチンで日本でも浸透

 荒唐無稽の主張のようにも思える「Qアノン」を自称する人たちの中には、ハーバード大学を卒業し、ニューヨークのマンハッタンに住んでいるエリート女性もいる。藤原さんの彼女へのインタビューは、彼女がニューヨーク・タイムズの一面を見て、「今日もまた全部フェイクニュースだ」と主流メディアを敵視することから始まる。

 彼女は元々民主党支持者で、党員でもあったが、ヒラリー・クリントンら民主党のエリートが小児性愛者の「闇集団」に属している、というインターネット上の「情報」に触れたことによって、Qアノンへと傾斜していくことになるのだ。

 彼女が「洗脳」されていく過程と手法について、藤原さんは丹念にQの投稿の特徴と手口を追っていくが、エリートであろうが、常識人であろうが、ネット上の情報をいったん信じ始めれば「穴」にはまったまま戻れなくなることがわかる。

 実は「Qアノン」は米国だけの話ではなくなり、日本にも違った形で広がっていることを藤原さんは取材していくのだが、そのきっかけとなったのは新型コロナの感染拡大、パンデミックだった。とくに、ワクチン接種の動きが出てくると、ワクチン接種に抵抗を示す人たちが一定数広まった。そうした人々の一部がDSの陰謀論に触れたことで、「Qアノン」の主張が日本でも水面下で浸透し始めたのだ。そうした主張に共鳴する人の中には、現役の市会議員もおり、国内線の航空機でマスク着用を拒否するなど大きなニュースになったこともある。

 そうした人たちは、日本では「Jアノン」という名称で呼ばれることもあり、「Qアノン」とは別に、独自の変化を遂げるようになっていく。いずれも主張のほとんどはインターネット上で展開され、拡散されていくが、これは米国とも共通の現象だ。だから、あなたの隣にいる人かもしれない。

誰が「Q」なのか

 「Qアノン」にしても、「Jアノン」にしても、「カルトに近い性格がある」という専門家の分析も示されており、実際、宗教団体との関連性も指摘される。安倍晋三元首相の銃撃死亡事件以来、宗教と政治の関係は、日本でも最もホットなテーマになっているが、「Qアノン」はその先行事例としてとらえることもできる。

 藤原さんは「Q」が誰であるかを、ぎりぎりまで追跡し、ある人物の可能性に迫り、インタビューにもこぎつける。蓋然性は極めて高いが、本人が認めないため、藤原さんもあえて断定はせず、判断は読者に委ねられる。

 11月の米中間選挙の結果次第では、次の大統領選挙でトランプ氏の復活が実現する可能性がある。その中間選挙でも、次の大統領選でも、投票行動に影響を与えるのが「Qアノン」であることは間違いない。

 本書によれば、「Q」は2020年12月、いったん投稿を止めている。しかし、2022年6月24日、1年半ぶりに投稿を再開した。その書き込みはこうだった。

「もう一度、ゲームをはじめようか Q」





 


  • 書名 Qを追う
  • サブタイトル陰謀論集団の正体
  • 監修・編集・著者名藤原 学思 著
  • 出版社名朝日新聞出版
  • 出版年月日2022年9月30日
  • 定価1870円(税込み)
  • 判型・ページ数四六判・256頁
  • ISBN9784022518576

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