旧統一教会(世界基督教統一神霊協会)、現世界平和統一家庭連合に関する記事が新聞、テレビやネットメディアで伝えられない日はない。だが、洪水のような報道のなかで、問題の本質をつかみかねている人、そもそも「旧統一教会や霊感商法って何なの」と感じている人も多いのではないだろうか。
そうしたなか、旧統一教会問題を 40年以上にわたって追及してきた有田芳生(よしふ)さんの『改訂新版 統一教会とは何か』が大月書店から緊急出版された。
本書は今からちょうど30年前、旧統一教会による合同結婚式が、芸能人や有名スポーツ選手を巻き込んで大騒ぎになった時に緊急出版された同名の本に、新たに、安倍晋三元首相暗殺事件関連の動きを序章として書き加え、他の章は必要最小限の修正加筆で出版されたものだ。
しかし、その内容は、有田氏が「あとがき」でも触れているように、旧版の内容が現在もまったく古びていないだけでなく、旧統一教会の行動パターンはかつても今も基本的に変わりがないことに驚かされる。
一方で、この30年の間、旧統一教会に関する報道は鳴りを潜めた。有田さんが「空白の30年」と呼ぶ所以だが、その意味でも『改訂新版』刊行の意味は大きい。
今回の旧統一教会報道の洪水は、2022年7月8日に安倍元首相が参院選の応援演説中に銃撃・暗殺された事件に端を発する。実行犯の男が犯行動機について、旧統一教会への多額献金によって家庭を崩壊された恨みによるものだったと供述したと報じられてからだった。しかし、大手メディアは当初、警察発表の「特定の宗教団体」という表現にとどまり、メディアには「空白の30年」の余韻が残ったままだった。
旧統一教会側が記者会見し、安倍元首相が旧統一教会の関連団体に挨拶のビデオメッセージを寄せたことが、実行犯に恨みを転嫁させることになった点も明らかになり、メディアは手のひらを返したように実名報道に切り替え、旧統一教会がらみの報道は過熱していく。
有田さんはジャーナリストとして、旧統一教会問題に深くかかわり、その後はオウム真理教事件も取材し、テレビ番組でのコメントも数多くこなしてきたので、顔と名前を知っている方も多かろう。2010年に当時の民主党の参院議員となり、政党再編に伴って立憲民主党に籍を移し2期参院議員を務めたが、奇しくも安倍元首相が命を失った2022年7月の参院選で落選した。落選と同時に、今度は旧統一教会の専門家の一人として、テレビをはじめとするメディアから引っ張りだこになっている。
「空白の30年」の結果、現在40歳以下の日本人は、統一教会や霊感商法という単語も含めて基本的な知識を持ち合わせていないだろう。また、それを報じるメディアの若い記者たちも、そうした生のデータに触れることがないまま今日に至っている。本書を読んでいると、目下報道されている基本的な問題点が、すでに30年前に指摘されていることがわかる。いわば、メディアにとっても、本書は旧統一教会問題の入門書であり、ネタ本になっているということである。
旧統一教会と自民党との関係の原点は何なのか、旧統一教会が自民党政治家の選挙応援をするのはなぜなのか、そして、岸田首相が説明に消極的な、安倍元首相と旧統一教会との関係もほぼ浮き彫りになっている。そして、自民党が否定する旧統一教会との「組織的な関係」について、内部文書や元信者の証言を交え詳細に指摘されている。
自民党と旧統一教会の関係で言えば岸信介、安倍晋太郎など安倍元首相の祖父と父という政治家の名前はもちろん、金丸信、中曽根康弘など大物政治家の名前も登場する。反共団体の旧統一教会が北朝鮮首脳と接近した理由も明かされている。
また、日本を震撼させたオウム真理教による「サリン事件」の後、日本の警察当局は次の捜査ターゲットを、霊感商法などへの組織的関与が疑われる旧統一教会と決めていたことが、有田氏自身の関与も含めて明らかにされる。しかも、その警察の動きが「政治の力」で止められてしまったことが、警察関係者との居酒屋の席で知らされるというエピソードも出てくる。
『改定新版』では、資料編にいくつかの新資料が加わった。旧統一教会が、世界平和統一家庭連合への名称変更を申請し、文化庁に認証されたいきさつについて、有田氏の事務所が文化庁に電話で問い合わせた回答も載っており、そこでは宗教法人室室長補佐が所管の文部科学大臣に名称変更の認証や統一教会の過去と原状について「事前説明した」との回答も載っている。
政治との関係だけでなく、いわゆる霊感商法の実態や「霊能者」のからくり、またその霊能者が国会議員になっていたことも30年前に指摘している。
最近、旧統一教会の「教会改革推進本部長」として記者会見し、テレビに映った幹部が、まさに30年前の韓国での合同結婚式で有名女性スポーツ選手の婚約者だったことが話題になった。30年前は芸能ニュース的に扱われた合同結婚式だが、その教義や参加したカップルがその後どうなるのか、さらには結婚式後の性の儀式である「三日儀式」がどのようなものかなど、問題の本質にかかわる細部と経験者の証言が、驚くべき内容で収録されている。
「空白の30年」といわれる旧統一教会問題だが、空白を生み出した政治、そしてメディアの責任は重い。安倍元首相暗殺事件に関して警備の不備が指摘されるが、むしろ警察の旧統一教会追及に対する動きを政治の側が止めていなければ、安倍元首相暗殺はなかったかもしれないという論理は飛躍にすぎるのかという思いに駆られた。
また、本書のような内容や旧統一教会の名称変更などが繰り返し報じられていれば、旧統一教会の布教や霊感商法の勧誘に対して、若い人たちも含めて一種の「免疫」ができていたのではないかとも感じる。
30年の空白を埋め、同じことを繰り返さないためにも、今読まれるべき一冊である。
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