推しが燃えた。仕事を終えてスマホを見ると、推しの名前がトレンドに上がっていて、炎上しているのを知った。
記者は直前の週末に、アイドルや「推すこと」にまつわる論考を集めた本『アイドルについて葛藤しながら考えてみた』(青弓社)を読み終えたばかりだった。推しを叩く無数のファンたちの言葉を読みながら、本書の論考の延長線上に、推しの現状を置いて考えざるを得なかった。
炎上したのは、アイドル専用メッセージアプリでの推しの発言だった。発言の詳細はここでは省く。記者は、炎上の内容と同じくらい、ファンたちの「普段は素直でいい子なのに」という言葉が気になった。
普段のファンたちは、「努力家」「真面目」「素直」「優しい」......といった言葉で推しを褒めている。それが、期待外れの言動をされた途端、一気に失望の言葉に変わった。
もちろんファンを傷つけることになった推しの発言を全肯定はしないけれど、それにしてもこの態度の変わりようは何なのだろう。
本書第1章「絶えざるまなざしのなかで」で、「アイドルが一人の人格としてよりも、わかりやすく『キャラクター』として消費されていくような事態」についての言及がある。
「いい子」「真面目」「素直」などの言葉は、もちろんアイドル本人を切り取った形容かもしれない。しかし、それに当てはまらない言動をばっさりとキャンセルするということは、ファンは本人からかけ離れた、「いい子」という「キャラクター」を期待してしまってはいないだろうか。
アイドルに限らず、昨今は特に、芸能人の不祥事がネット上で炎上しやすい。「そんな人だとは思わなかった」「いい人だと思っていたのに」......視聴者が求める「いい人」とは、本当にその芸能人自身だろうか?
本書に掲載されている論考の多くは、アイドルに対する「消費」の問題に焦点を当てている。性的消費、ルッキズムによる消費、プライベートの消費......アイドルに対するファンのまなざしには、あらゆる「消費」の要素が含まれている。それぞれの消費が、どのように発生し、どのような問題をはらんでいるかが、本書の各章で議論されている。
しょう‐ひ【消費】
1 使ってなくすこと。金銭・物質・エネルギー・時間などについていう。「ガスを--する」「--電力」
2 人が欲望を満たすために、財貨・サービスを使うこと。「個人--」
(「デジタル大辞泉」より)
ファンに対するアイドルの消費は、辞書の説明に当てはめると、「ファンが欲望を満たすためにアイドルを使う」ということになる。ファンの欲望と消費について、本書第1章ではこう論じられている。
演者に対する受け手の理想像や欲望の投影は、そもそも自分勝手なものにならざるをえない。しかしそれらは、あくまで受け手の内心に浮かび上がるかぎりにおいては、規制されるべきものでもなければ完全に制御しうるものでもない。それらが直接に演者に対する有形無形の強制力や加害としてはたらくのは、具体的な言動として外界に表出されるときである。
ファンの欲望の表出は、アイドルファンが誰しも慎重に考えていくべきテーマではないだろうか。とにかく今は、推しよ、SNSを見ないでいてくれ。記者は切にそう祈った。
本書では、48グループ・坂道グループ、ハロー!プロジェクト、K-POPなどあらゆるアイドルを対象にし、さまざまな角度から「推す」ことの倫理を問うている。きっと本書は、読んだアイドルファンが自分自身の推し方を見つめ直し、自分なりに議論を始めることで完成する本なのではないかと思う。アイドルを推す人が、一人でも多く本書を手に取り、葛藤しながら考え始めることを、いちアイドルファンとして願っている。
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