韓国出身の7人組男性グループ「BTS(防弾少年団)」が、日本をはじめ世界中で大人気だ。K-POPとの融合というコンセプトで生まれた日本人女性グループ「NiziU(ニジュー)」も紅白歌合戦への出場を決めるなど、日本の若者の間でK-POPへの人気が拡大した。
また、「愛の不時着」など韓国ドラマが、ネットフリックスを中心としたネット配信で茶の間に深く浸透した。こうして音楽・映像のカルチャーシーンでは、何度目かの韓流ブームが訪れたにもかかわらず、日韓関係は最悪と言われるほど、冷え込んだ。
いわゆる「嫌韓本」の出版も相次いだが、BOOKウォッチが注目したのは、『米韓同盟消滅』(新潮新書)だ。2018年10月に出た本だが、現在の北東アジアの政治状況を予測していたからだ。
米国と北朝鮮の核をめぐる協議は難航し、韓国の文在寅政権は北寄りの姿勢を崩さない。「米韓同盟が消滅しかかっている」と著者で元日経新聞ソウル特派員の鈴置高史さんは警告していた。米国の後ろ盾を失えば、韓国は実質的には中国の勢力圏に入る可能性が高いと鈴置さんは見ている。
カルチャー的には近づいた日韓だが、政治・外交・経済・軍事的にはかつてないほど日韓関係は緊張している。このアンバランスが浮き彫りになった2020年である。
検事総長の解任問題などで支持率の低下が著しい文在寅大統領。『韓国大統領はなぜ悲惨な末路をたどるのか?』(宝島社)を読むと、韓国の政権交代のメカニズムが分かる。
民主派(左)と保守派(右)の非和解的対立は、韓国の建国前とその後も続いた共産主義勢力との厳しい戦いに由来することを指摘している。
韓国建国後の1948年10月に南朝鮮労働党の指令を受けた軍部隊による「麗水・順天反乱事件」が起きて、当時の李承晩大統領によって鎮圧された。この際、党員を含めた約8000人の将兵が「アカ(共産主義者)」のレッテルを貼られ粛清された。その家族は怨念を持って社会の底辺に滞留した。その後の朝鮮戦争では南北合わせて約450万人の死傷者を出し、南北は敵となり、韓国内の反共自由主義者と共産主義者の対立も怨念対立と転化した。
北朝鮮の地下組織は現在まで、さまざまな合法組織の中に浸透しているという。文在寅政権は多数の学生運動出身の従北派を受け入れているとして、固有名詞と肩書をあげて書いている。大統領府の40%近い高官と職員が「全大協(全国大学生代表者協議会)」出身者というから驚きだ。反日政策が次々に打ち出されるのも当然だろう。
次期政権を保守派が奪還すれば、文在寅大統領も「塀の中」と結論づけているが、コロナ禍の行方が大統領の命運を左右するかもしれない。
昨年(2019年)韓国で刊行され、日本語訳が40万部を超えるベストセラーになった『反日種族主義』(文藝春秋)の続編が、『反日種族主義との闘争』(文藝春秋)だ。前著に韓国内から寄せられた批判に誠意をもって答え、あらためて韓国に根付いた「嘘」を実証したものだ。元ソウル大学教授の李栄薫(イ・ヨンフン)氏ら8人の専門家が、日本による植民地支配や慰安婦問題、徴用工問題などを歴史的研究に基づいて論証している。韓国でも相当数の読者層を獲得したのは、以前にはなかった新しい現象だ。
李氏らを批判する学者は「実態としての"強制動員"や"強制連行"はあった」と主張している。これに対し、李氏は1920~43年の統計を引き、そのような「略取」と「誘拐」はほとんどなかった、としている。慰安婦たちの送金と引き出しの統計資料にもあたり、「慰安婦生活は、非常に危険であることの見返りとして収益が良かったのは事実です」と書いている。
「知日派」のレッテルを貼られると、社会的生命が脅かされかねない韓国で、一部の学者は勇気ある言論活動をしている。
韓流ドラマで見た華やかな映像と報道で知る厳しい政治状況。この両極のイメージの間に本当の韓国の姿があるのではないだろうか。
『韓国社会の現在』(中公新書) は、日本以上に、超少子化、貧困・孤立化、デジタル化が進む韓国の現実を、早稲田大学韓国学研究所招聘研究員で日韓文化交流基金執行理事の春木育美さんが分析した本だ。
若者の就業率、教育費負担、男女の賃金格差など先進国の中で〝最悪〟の数値を示す韓国。特に、1を切った出生率、60%が無年金者という高齢者の貧困率・自殺率は深刻だ。他方で問題解決のため大胆な政策を即実行し、デジタル化などは最先端を行く。若者は「ヘル(地獄)韓国」と嘆いているという。韓国の苦悩は日本の近未来でもあることが分かる。
『君は韓国のことを知っていますか?――もう一つの韓国論』(春秋社)は、韓国人の思考法や行動の原理にもなっているのは「信仰」だと指摘している。韓国のキリスト教信者は人口の3割を超えているそうだ。仏教徒は2割ちょっとだというからキリスト教徒の方が多い。最近の大統領でも金泳三、李明博はプロテスタント、金大中、文在寅はカトリック。いずれも熱心な信者であり、個人差はあるが、「理想を追求するタイプ」だという。「日本人にとっては、このような人々が大統領に選ばれる政治風土を理解することが少し難しいかもしれません」と書いていた。
『倭館――鎖国時代の日本人町』(文春新書)は、江戸時代「鎖国期」の倭館を扱っている。日本と外国との窓口はオランダ貿易をしていた長崎の出島だけだったと思われがちだ。ところが実際には朝鮮の釜山に「倭館」が置かれ、そこを拠点に朝鮮との外交や貿易が続いていたことが分かる。
さらに歴史を遡ると、深いつながりがあったことを紹介したのが、『渡来系移住民』(岩波書店)だ。7世紀半ばすぎの百済の滅亡で、大量の百済人が渡来したことはよく知られている。平成の天皇陛下は、「私自身としては、桓武天皇の生母が百済の武寧王の子孫であると、『続日本紀』に記されていることに、韓国とのゆかりを感じています」と語ったことがある。平安時代初期に京や畿内に住んでいた氏族の名前を記した『新撰姓氏録』(815年)によると、全体の30%が中国や朝鮮をルーツとする人たちだったことにふれている。
歴史的に深いつながりがある日本と韓国。「嫌韓本」では知ることが出来ない世界が広がっている。
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