日韓関係が最悪となった昨年、韓国関連の本の出版が相次いだ。その中で最も注目されたのは、『反日種族主義』（文藝春秋）だ。韓国で2019年7月に刊行され、10万部。日本でも11月に出版され、40万部を超えるベストセラーになった。
韓国内から強烈な抵抗と罵倒が寄せられた。降り注いだ批判に誠意をもって答え、あらためて韓国に根付いた「嘘」を実証したのが、本書『反日種族主義との闘争』（文藝春秋）だ。
『反日種族主義』は、元ソウル大学教授の李栄薫（イ・ヨンフン）氏ら6人の専門家が、日本による植民地支配や慰安婦問題、徴用工問題などを歴史的研究に基づいて論証した本だ。韓国に根付くシャーマニズムが嘘をつく風土を助長していると、李氏は主張。日本による植民地支配が極端に歪められて、韓国で浸透していることを論証した。韓国では前述のように猛烈な反発を受けた。
簡単におさらいすると、こんな内容だ。李氏は「嘘の国」と題し、嘘をつく国民、嘘をつく政治、嘘つきの学問、嘘の裁判、と韓国を徹底的に批判している。そうした嘘について寛大な社会の底辺を流れているのは、「物質主義」だとしている。その根本にあるのは韓国に長い歴史を持つシャーマニズムだという。
「シャーマニズムの世界には善と悪を審判する絶対者、神は存在しません。シャーマニズムの現実は丸裸の物質主義と肉体主義です。シャーマニズムの集団は種族や部族です。種族は隣人を悪の種族とみなします」
こうして日本に対して客観的な議論が許容されない土壌が形成されてきた。 「韓国の民族はそれ自体で一つの集団であり、一つの権威であり、一つの身分です。そのため、むしろ種族と言ったほうが適切です」。それゆえ、同書のタイトルは「反日民族主義」ではなく、「反日種族主義」となっていた。
『反日種族主義』は、主要な言論機関が黙殺、歴史学界も沈黙したが、韓国で10万部を超すベストセラーになった。しかし「左派運動勢力は逆上しました」と李氏は、本書のプロローグに書いている。
ある小説家は、「新反民族行為処断法」を制定してでも著者らを処断しなければならない、と主張。教授出身で現政権の中心にいる政治家は、「反逆売国親日派」と罵倒したという。
相当数の読者層を獲得したのは、以前にはなかった新しい現象、と李氏はとらえ、「事実が勝利する！」と確信している。本書の構成は以下の通り。21の論文と1つの特別寄稿からなる。
第1編 日本軍慰安婦 慰安婦強制連行説に対する再批判、彼女たちは果たして手ぶらで帰ったのか？、など 第2編 戦時動員 日本に行ったらみな強制動員なのか？、働いても賃金が貰えなかったという嘘、など 第3編 独島 幻想の島、独島編入と独島密約、など 第4編 土地・林野調査 土地収奪説に再度論駁する、など 第5編 植民地近代化 日帝時代における生活水準の変動、など
論点は多岐にわたるので、李氏が書いた「慰安婦強制連行説に対する再批判」に絞り、その主張を紹介しよう。前著よりもさらに統計資料などに基づいて実証的手法を徹底している印象を受けた。
李氏らを批判する学者は「実態としての"強制動員"や"強制連行"はあった」と主張している。李氏は1920～43年の統計を引き、そのような「略取」と「誘拐」はほとんどなかった、としている。
日本軍慰安婦制は、以前からあった公娼制度の一部分だったというのだ。「彼女たちの一定部分は、もともと娼妓、酌婦、芸妓、女給として性売買産業に従事していた女性たちでした」。
慰安婦たちの送金と引き出しの統計資料にもあたり、「慰安婦生活は、非常に危険であることの見返りとして収益が良かったのは事実です」と書いている。
彼女たちが手ぶらで帰ったというのは間違いだが、「彼女たち皆が大金を儲けた」というのも間違いだとし、「帰還以降の慰安婦たちの人生も、決して平坦なものではありませんでした」と、中立的に記述している。
朝鮮王朝が日本に敗北したのは、「公は貴く、私（し）は賤しい」という法哲学が、残忍な刑罰制度と共に民を抑圧して来た歴史の報い」だとして、文明史的視角から韓国併合を再検討する必要があるという。確かに韓流ドラマの時代劇を見ると、私利私欲を追求し政争に明け暮れる支配層の腐敗ぶりには、呆れるばかりだ。
こうした見解が、韓国の歴史学者から出てきたのは、驚きというほかない。8人の著者は、経済学者、歴史学者、新聞記者、雑誌客員コラムニストなどだ。
本書は韓国で出版された『反日種族主義との闘争』（2020年、ソウル・未来社刊）をもとに、編著者が日本語版を作成したものだ。イデオロギーよりも「事実」に基づいた記述に信頼性を感じた。BOOKウォッチでは、『反日種族主義』のほか、『君は韓国のことを知っていますか?――もう一つの韓国論』（春秋社）、『韓国大統領はなぜ悲惨な末路をたどるのか？』（宝島社）などを紹介済みだ。
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