キャスター歴20年以上というフリーキャスター・唐橋ユミさん。キャスターの役割は、さまざまな人と会話しながらわかりやすく伝えること。周りからは「会話のプロ」と言われ、普段から会話の悩みの相談を受けることが多々あるという。
本書『会話は共感力が9割――気持ちが楽になるコミュニケーションの教科書』(徳間書店)は、唐橋さんの6年ぶりの著書。これまでのインタビューや取材経験をとおして知ったこと、気づいたこと、コミュニケーションが円滑になるヒントを、現場での成功談とともに思い出したくない失敗談もまじえて綴っている。
「いちばんお伝えしたいのは、会話やコミュニケーションのベースになる、『共感力』の生かし方、高め方です。なぜなら、それは、会話やコミュニケーションのみならず、人生に好影響を与えてくれる、人の生き方そのものだからです」
唐橋(からはし)ユミさんは、1974年福島県生まれ。99年から5年間、テレビユー福島のアナウンサーとして活躍。その後フリーとなり、「サンデーモーニング」(TBS系)、「新shock感」(テレビ東京系)、「イチ押し 歌のパラダイス」(NHKラジオ第1)、「NOEVIR Color of Life」(TOKYO FM)など、多方面で活動している。
はじめに「会話に自信がもてれば、日々の生活に自信がもてます」とある。実際には、会話に自信がある人は少数派で、初対面の相手とうまく話せない、会話が盛り上がらず途切れる、職場のニガテな人と会話するのが億劫......など、会話に悩む人が多数派ではないだろうか。唐橋さんはそんな悩みがないからこそ、長年フリーキャスターとして活躍し、本書を執筆しているのかと思ったが、そうではなかった。
「正直に言います。私自身、人見知りで、訛りがあり、今も人の前で話をするときは緊張します。でもだからこそ、会話に対する悩みが身に染みてわかります」
唐橋さんは、自身がキャスターを続けてこられたのは、話をすることよりも「話を聞くことに力を注いできたから」と考えている。なかでもいちばん意識していることは、相手の話をただ聞くのではなく、「相手の気持ちに寄り添うことを意識する、『共感力』」。この「共感力」があれば、相手との間に「信頼という空気」が醸成され、会話は成立していくという。
「『会話』は、仕事のみならず、人生の大半を占める大きな要素です。だから、会話に自信をもてるようになると、おのずと日々の生活にも自信がもてるようになり、そうなると、人生も好転していきます。それは、地方のテレビ局の契約アナウンサーから出発したコンプレックスだらけの私自身が、身をもって実証しています」
本書は「相手の気持ちを想像して、自分の距離感で寄り添う『共感力』を、育てて、生かすことを目的」としている。「共感力」をテーマに、人間関係、初対面、リモート会議、プレゼン、日常会話、恋愛、メンタルなど、オン・オフさまざまな面で役立つ会話とコミュニケーションのコツを紹介している。
出演番組や共演者のエピソード、移動中の電車内での人間観察、仕事に必要な情報収集、服装やエチケットで心がけていること、体調維持のためのマイルール、体と心のリフレッシュなど、日常生活で「共感力」を高める裏技から心を整えるためのルーティンまで、幅広い。
評者は唐橋さんのことを本書で初めて知ったが、生放送番組や著名人のインタビューなど、張り詰めた空気の現場でどんなことが起き、なにを考え、どう対処するかなど、貴重な体験談をたくさん読めて興味深かった。こんなふうに気配りができ、知的好奇心にあふれ、努力しつづける40代になりたいものだ、と思った。
本書の目次は以下のとおり。
第1章 共感力を生かした【聞き方】
印象がまったく変わる座り方と視線の位置/苦手な人、場が凍ったときの対処法とは ほか
第2章 共感力を生かした【話し方】
状況に応じたテンポや声質の使い方/沈黙や緊張との付き合い方 ほか
第3章 共感力を育む【生活習慣】
日々の生活のなかで「共感力」を高める裏技/言葉のセンスを磨く最適なアイテム ほか
第4章 共感力を育む【心の整え方】
とことん落ちているときの回復方法/自信をもって日々を送るための準備 ほか
まず、第1章の「会話のスキル以前に大切なこと」を紹介しよう。唐橋さんは「人見知りで、会津地方の訛りがあり、緊張しやすく、華やかなルックスも、残念ですがもちあわせていません。自分からセンターに躍り出たり、ひな壇の芸人さんのようにグイグイと発言していくようなことは、今も少し苦手です」と、自己分析している。
だからこそ、スキル以前に大切にしていることがあるという。それが『共感力』。唐橋さんは話を聞くとき、相撲やスポーツなどでもよく使われる「心・技・体」ならぬ「心・疑・態」をいちばん大事にしている。
・ あなたに関心がありますの「心」(嘘をつかない)
・ 小さな疑問をおろそかにしない「疑」(その人を「もっと知りたい」と思いながら質問を重ねていく)
・ 先入観にとらわれない態勢の「態」(うまくまとめようとしない)
あなたに興味・関心があるという「心」の温度は必ず伝わる、としている。たとえば「あなたのことをとても理解しています」と言葉で告げるより、真剣に聞いている姿を相手に見て感じてもらうほうが伝わることがあるという。
「態」のところで、苦い経験を披露している。それは、ある著名な脚本家に会ったときのこと。「さすが、言葉のセンスが抜群ですね」と褒め言葉をかけたつもりが、「私は心で書いているんですよ!」と言われてしまった。「安易な言葉で適当にまとめるんじゃないよ」という相手の心の声を感じ、後悔。今も教訓として胸に残っているという。「大切なのは、相手に対して、興味、関心をもち、尊重することです。つまり、共感する力、『共感力』なのです」。
新型コロナの感染が急速に再拡大している。ここでは、第1章「リモート会議にも有効なリアクション」にもふれておこう。心理学者によると、好感度の判断基準の50%以上が表情によるものという。好感度を上げるためには、言葉遣いを修正するより、日常のちょっとした表情や仕草に注意するほうが効果的のようだ。唐橋さんは番組内で、以下のノンバーバルなリアクションを心がけているという。
・「んー」「へー」など、言葉でなくても共感が伝わる声を挟む。
・頷きをゆっくり大きくしたり、早く小さくしたりする。
・驚いたときは口に手を当てたり、後ろにちょっと下がってリアクションを大きめにとったりする。
・面白いときは、顔を下げて「くくく」と笑う。
・話が盛り上がってきたときは、「ん?」と背筋をピンと伸ばしたり、歯を見せて笑ったりする。
・真剣な話のときは、口を強めに閉じる。
「リモートワークで画面上のコミュニケーションが増えた今、ノンバーバルなリアクションを強化しておくと、コミュニケーション力は確実に上がります」としている。顔の下半分をマスクで覆う生活を数か月続けていると、しだいに表情が乏しくなってきたのを感じる。コミュニケーションの一つとして、ノンバーバルも意識したい。
今年はコロナ禍で大変な年になった。第3章「スマホやPC、SNSとの付き合い方」から、積もり積もったストレスが軽くなる唐橋さんの考え方を紹介したい。SNSに限らず、周りの人に言われて傷ついた言葉がこれまでいくつもあったという唐橋さん。それが最近、「別にあの言葉はどうでもよかったな」と思うことが多くなったという。
「大人になって悟りを開いたというか(笑)、言葉をふるいにかける自分の基準ができたというか、時々耳が遠い人になることができるというか。『どの言葉を取捨選択するか』というポイントがわかってきました」
そして、今まさに悩んでいる人にメッセージを送っている。
「もし、若いあなたがSNSでの誹謗中傷、心ない言葉に傷ついたりしているなら、『あなたのこれからの人生に、その人の言葉は必要ですか? 会ったこともない、自分のことを何も知らない人に言われた言葉が......』そんなふうに自分に問いかけてみてほしいと思います」
本書は、キャスター、インタビュアー、ラジオパーソナリティの仕事に興味がある人、コミュニケーション力を磨きたい人にピッタリの一冊。各界の著名人と共演し、番組を円滑に進行する役割をこなす唐橋さんの視野の広さ、気配りの細やかさ、臨機応変な対応など、勉強になる。
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