読むべき本、見逃していない?

多くの人に受けてほしい「命の授業」

NICU命の授業

 本書『NICU命の授業――小さな命を見守る最前線の現場から』(赤ちゃんとママ社)は、生まれてくること、生きていることは、奇跡なのだと教えてくれる。発売からひと月経たずに重版され、SNSでも話題になっているようだ。

 著者は、ドラマ「コウノドリ」(TBS系)の医療監修を担当した神奈川県立こども医療センター新生児科医・豊島勝昭さん。本書は、豊島さんが2008年より神奈川県内の小中高校で伝え続けている「NICU命の授業」を書籍化したもの。これまでに63回行い、約2万人の子どもたちが「命の授業」を聞いたという。

「未来への種まき」のつもりで

 豊島勝昭さんは、新潟大学医学部卒業。1994年より神奈川県立こども医療センターで小児科・新生児科の研修。98年東京女子医科大学で小児循環器学の研修と研究。2000年より神奈川県立こども医療センター新生児科に勤務。14年より同センター新生児科部長(19年より周産期センター長を兼任)。元プロ野球選手・村田修一さんとNICUサポートプロジェクトを発足し、社会に新生児医療の現状を伝える活動を続けている。「神奈川県いのちの授業大賞」の第1回、第2回で優秀賞、審査員特別賞を受賞。

 十数年前、NICUのベッド不足が社会問題化して連日報道されていたころ、豊島さんのNICUでも多くの人が辞めていき、新しいスタッフも集まらず、新生児医療が崩壊してしまわないかと不安だったという。「子どものころにNICUの存在を知ったら、NICUで働きたいと憧れて、医師や看護師をめざす人が出てくるかもしれない」という想いもあり、豊島さんは地元の学校でNICUについて伝える授業を始めた。「地元で働く医療者をめざす人が出たらうれしい」のはもちろん、そうでなくても、次のように考えている。

 「お父さんやお母さんになって出産や育児を経験するときに、昔聞いたことを思い出してもらえたらいい。さらに、自分が住む町にもNICUで頑張った赤ちゃんやご家族がいることを知って、町で応援してくれる大人になってほしい。そんな想いから『未来への種まき』のつもりで、学校で授業をしていました」

 「命の授業」では、地元のNICUにおける妊娠や出産、命の誕生を伝え、「もし自分だったら」と考えてもらうことを大切にしてきた豊島さん。慌ただしい診療の合間に授業を続けることに大変さを感じたこともあるが、やめたいと思ったことは一度もないという。

 「命の授業は、つねに私に初心を思い出させてくれたり、私たちの役目を再確認させてもらえる機会だからです」

NICUの予備知識

 NICU(Neonatal Intensive Care Unit)とは、生まれたばかりの赤ちゃんのための集中治療室のこと。赤ちゃんの変化により早く気づくため、呼吸や心拍などの変動を知らせるモニターが複数ある。365日24時間体制。新生児科医をはじめ、生まれる前のことをよく知る産科医、さまざまな専門知識や能力のある小児科医、放射線科医、外科系の医師が一緒になって、赤ちゃんの集中治療を行っている。

 NICUに入院するのは、早産、小さく生まれた、出産の途中で具合が悪くなった、生まれつき病気がある、などの赤ちゃん。生まれたばかりの赤ちゃんは、からだの機能も未成熟。お母さんのからだの外の生活にうまく適応できず、出産後に具合が悪くなって入院することもある。

 NICUに入院する赤ちゃんは体温調節がうまくできないため、保育器と呼ばれる透明な箱型ベッドで過ごしてもらうことも。ほかにも、呼吸の力が弱く人工呼吸器の力を借りたり、上手に哺乳できるようになるまで、点滴をしたり口や鼻から胃にチューブを入れたりして母乳や薬をあげることもある。なお、「小さく生まれた」赤ちゃんの出生時の体重は、次のように分類されるようだ。

低出生体重児  2500g未満で生まれた赤ちゃん
極低出生体重児 1500g未満で生まれた赤ちゃん
超低出生体重児 1000g未満で生まれた赤ちゃん

 NICUの現状にもふれている。日本の新生児医療の救命率は世界有数の高さ。1500g未満で生まれた極低出生体重児の救命率は、全国的に見ても95%を超えつつある。新生児医療の救命率が高まるにつれて、NICUの病床不足で入院困難になっていることが社会問題となったが、近年NICUへの入院が困難となる赤ちゃんはほとんどいなくなった(14年には新生児1万人あたり30.4床)。その一方、増えたNICUベッドに対して働く医療者の不足は続き、NICUで働く医療者の育成や働き続けられる環境づくりが必要となっているという。

「あなたならどうする?」

 本書はこのように、NICUの予備知識をわかりやすく解説。その上で、「赤ちゃんが早産や病気で生まれてくるかもしれないと言われたら...」「赤ちゃんが亡くなってしまうかもしれないと言われたら...」「おなかの子に障害があるかもしれないと言われたら...」と実際に言われた患者家族の例を紹介している。どの例についても「あなたならどうする?」と読者に問いかけ、赤ちゃんがNICUに入院することは「決して特別なことではなく、どの家族にも起きるかもしれないこと」と伝えている。

第1章 NICU命の授業――誕生の喜び
第2章 NICU命の授業――限りあるかもしれない命だとしても残してくれるもの
第3章 NICU命の授業――障害とともに生きること
第4章 NICU命の授業――感動だけで終わらず考えてほしい
第5章 命の授業を受けた学生たちの進路
第6章 NICUのこれから、新しいNICUをめざして

 第1章「NICUに入る理由」に「NICUは特別な場所ではない」とある。2019年の出生数が過去最少の86万人台だったように、生まれる赤ちゃんは減っている。ところが、早産や生まれつきの病気の赤ちゃんは増えているというから驚く。「およそ33人に1人」の赤ちゃんが、NICUに入院して何らかの治療を受けているという。

 また、早産になる理由として(「原因不明の場合もたくさんあります」とした上で)、40歳を超えてからの妊娠、成長期の10代での妊娠、過度なダイエット、日常的な飲酒、喫煙(受動喫煙)、過度な仕事や家事を挙げている。こうして見ると、どれも決して珍しいわけではない。

 評者は出産したとき、NICUについてはぼんやり認識している程度だった。しかし、産後数日が経った退院予定日のこと。赤ちゃんに黄疸(皮膚が黄色くなる症状)が見られたため、急遽NICUに入ることに。赤ちゃんの様子を見るため、緊張しながら恐る恐るNICUに行くと、目を覆われた状態で、黄疸を軽減するための光線療法器で治療を受けていた。ほんの数日間のNICUでの入院だったが、それでも当時の不安感は忘れられない。

誕生と死が紙一重

 第2章「赤ちゃんが亡くなってしまうかもしれないと言われたら...」に、豊島さんが日々直面している厳しい現実を書いている。豊島さんのNICUでは「20人に1人」の赤ちゃんが家に帰れず、NICUで生涯を終える。お母さんのおなかの中で命を終える赤ちゃん、生まれてお母さんの子宮や胎盤の助けがなくなると具合が悪くなり、生まれて数時間で命を終える赤ちゃんもいるという。

 「そんな赤ちゃんたちとの1時間は、ご家族にとって一生忘れられない大切な1時間です。居眠りしていたらあっというまに過ぎてしまうかもしれない1時間に、NICUには誕生を祝い1分1秒を大切に生きている人たちがいます」

 NICUで働く医師、患者家族の数々のエピソードを読み、次元の異なる厳しさのなか生きる姿に衝撃を受けた。同じ1分1秒が、これほど重みのある、密度の高い時間になるのかと。感動的な話でも美談でもない。そこにいる人々が、この時間も懸命に生きていることを感じた。

 第2章「新生児医療のあり方」に「NICUは誕生と死が紙一重であり、喜怒哀楽が混在する医療現場」と書いている。

 「NICUで気づいたことは、『命は永遠ではなく、儚く消えてしまうこともある』ということでした。どんなにご家族が願っても、私たち医療者がどんなに力を尽くしても、早産や生まれつきの病気をなかったことにはできないですし、医学は魔法ではないと、無力さを感じることも少なからずあります。ですが、命がはかないと思えるからこそ、赤ちゃんとご家族といっしょに、NICUで生きる一日一日をともに喜び、ともに悩みたいと思えるようになりました」

 NICUで今を大切に生きている人たちと過ごしていると、コロナ禍でも「先のことばかり心配して、今を大切にできないのは悲しい」と、なおさら感じるという。子どもたちに「生きている今を大切にしてね」と伝えたかったのが「命の授業」。しかし、今後はこれまでのように同じ空間で伝え合う授業はできないかもしれないという。

 だからこそ、豊島さんは「自分ができることをしたいと思い、この本を執筆していました」。本書は小中高生から大人まで、読者一人ひとりの心に届く「命の授業」になるだろう。



 


  • 書名 NICU命の授業
  • サブタイトル小さな命を見守る最前線の現場から
  • 監修・編集・著者名豊島 勝昭 著
  • 出版社名株式会社赤ちゃんとママ社
  • 出版年月日2020年9月16日
  • 定価本体1200円+税
  • 判型・ページ数四六判・168ページ
  • ISBN9784870141506

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