読むべき本、見逃していない?

世界12か国で「砂マフィア」が暗躍している!

砂戦争

 タイトルを見ただけで、これは売れそうだな、と思う本がある。本書『砂戦争――知られざる資源争奪戦』 (角川新書)はまさにそんな本だ。まだあまり知られていない「砂」についての争奪戦を、世界に目を広げ、さまざまな角度から紹介している。地球環境に直結する問題でもあり、これから注目度が高まること間違いない。

埋め立てで国土を広げる

 ビル、住宅、道路、半導体――ちょっと注意を払うと、身近なところで砂が原材料として使われていることに気づく。半導体が砂と関係があるのか、と首をひねる人も少なくないと思われるが、半導体の原料は砂の石英からできているのだという。要するに文明は砂によって進化してきた、というわけだ。

 ところがその砂が枯渇し、争奪戦が激しくなっている。国連の報告書によると、世界では毎年500億トン前後の砂が使われている。過去20年間で5倍になっている。争奪の対象となっている川砂は河川の上流から海に向かって運ばれているが、世界にはすでに大小80万ものダムが建設され、砂の補給が細っている。ところが上記のように需要は拡大しているから必然的に争奪戦が起きる。

 世界最大の砂の輸入国はシンガポールだという。狭い国土はこの50年で埋め立てによって25%も増えた。近隣のアジア諸国から大量の砂をかき集めた結果だ。アラブ首長国連邦のドバイは、砂漠の中の超モダン都市として知られるが、要するに、コンクリートでおおわれた未来都市だ。原料の砂はオーストラリアから輸入されたという。砂漠の中にあるのになぜ輸入する必要があるのかと思われるかもしれないが、一般に砂漠の砂は、コンクリート素材には適さないのだそうだ。

国際条約もない

 本書は以下の構成。

 第一章 砂のコモンズの悲劇・・・砂資源の枯渇がはじまった/都市化の世紀/増える高層ビル、など
 第二章 資源略奪の現場から・・・中国の都市化/上海の驚異的な発展/犠牲になる生き物たち/朝鮮半島を狙う中国/アラブ首長国連邦のドバイ/300を超える人工島/膨張するジャカルタ/アジアで進む海岸侵食/沈みゆく国家/誰が砂を奪ったのか、など
 第三章 砂はどこからきたのか・・・河川は砂の製造工場/建築に使えない砂漠の砂、など
 第四章 砂マフィアの暗躍・・・サルデーニャ島の砂泥棒/アフリカの砂をめぐる紛争/ナイジェリアの発展/住民を分断する砂採取/シンガポールの発展/禁輸に踏み切った3カ国/中国のダム建設、など
 第五章 白砂青松はどうしてできたのか・・・砂と日本人/土木技術の発達/森林消失が生み出す砂/新潟砂丘/松と日本人/砂浜が消えていく/波消しブロックの蔓延/ダムに堆積する砂、など
 第六章 今後の砂問題・・・水も空気も砂も/オーバーシュート・デー、など

 砂に関するディープでホットな情報が満載だ。乱立する巨大ビルやコンクリートの7割は砂からできている。違法採掘、乱取引が横行するにもかかわらず、国際条約もない。

 国際環境計画(UNEP)によると、世界の砂取引で合法的に行われているのは150億トン程度。全体の3割前後に過ぎない。約70か国で違法取引が行われ、インド、インドネシア、ナイジェリア、イタリアなど少なくとも12か国では「砂マフィア」と呼ばれる犯罪組織が暗躍している。

 中でも「砂マフィア」が根を張っているのがインドだという。1992年から2020年の間に、インドでは48人のジャーナリストが殺されたが、うち44人が砂紛争がらみだったという。

「サンド・ウォーズ」で問題を知る

 著者の石弘之さんは1940年生まれ。東京大学卒業後、朝日新聞入社。ニューヨーク特派員、アフリカの特派員や編集委員などを経て退社。国連環境計画上級顧問を経て、96年より東京大学大学院教授、さらにはザンビア特命全権大使、北海道大学大学院教授、東京農業大学教授を歴任、という多彩な経歴だ。

 この間、国際協力事業団参与、東中欧環境センター理事なども兼務。国連ボーマ賞、国連グローバル500賞、毎日出版文化賞を受賞している。主な著書に、BOOKウォッチで紹介済みの『感染症の世界史』 (角川ソフィア文庫)のほか、『環境再興史』(角川新書)、『地球環境報告』(岩波新書)など多数。地球環境問題では最も有名なジャーナリストだ。

 とはいえ石さんも、ライフワークとして「砂戦争」に取り組んできたわけではない。2013年制作のフランスのドキュメンタリー「サンド・ウォーズ」をNHK・BSで見たのが関心を持つきっかけになった。

 それまでに、記者・研究者・外交官・国連職員などとして世界130国余りで調査・研究・講演・講義などをしてきたが、「砂」について特に注目したことがなかった。しかし、改めて記憶をたどると、中国・長江を船で下るときは、たしかに砂を満載した「はしけ」が連なっているのを見たし、ナイジェリアでは子どもたちがラグーンに潜って砂を集めていたのを思い出した。メコン川のほとりには砂がうず高く積み上げられていた。網膜には世界各地で見た砂の映像が残っていた。

 こうして80歳になる石さんが、改めて「砂」をテーマにまとめ、書き起こしたのが本書だ。そのエネルギーには脱帽せざるを得ない。すでに世界の「水」をめぐる争いは知られるようになったが、本書を通して「砂」への認識も深まるに違いない。日本でもタワマンブームや、東日本大震災からの復興、やがて襲ってくる大地震・津波対策の防波堤工事などで大量の砂が使われている。世界の「砂戦争」とは無縁ではない。

 BOOKウォッチでは関連で、『海洋プラスチックごみ問題の真実』(DOJIN選書)、『水道、再び公営化! 欧州・水の闘いから日本が学ぶこと』(集英社新書)、『大量廃棄社会』(光文社新書)なども紹介している。


   
  • 書名 砂戦争
  • サブタイトル知られざる資源争奪戦
  • 監修・編集・著者名石弘之 著
  • 出版社名株式会社KADOKAWA
  • 出版年月日2020年11月10日
  • 定価本体900円+税
  • 判型・ページ数新書判・256ページ
  • ISBN9784040823638

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