2020年7月1日から、レジ袋有料化が始まった。その前にはプラスチックストローをやめる運動が世界的に広がった。いずれもプラスチックによる海洋環境汚染を防ぐための運動の一環だが、本書に目を通せば、この程度ではとても海洋環境を守れないことがひしひしと伝わってくる。
本書『海洋プラスチックごみ問題の真実』(DOJIN選書)は日本における海洋プラスチックごみ研究の先頭に立ってきた磯辺篤彦・九州大学応用力学研究所教授による、一般の人向けの解説書である。
私たちの身の回りは、いつの間にか衛生的で便利、安価なプラスチック製品に囲まれている。プラスチックは鉄や紙、木材のような自然に分解・消滅する素材と違って、人が消滅させない限り、最後はプラごみとして海洋に流れ着く――いわれてみれば当たり前のことだが、私たちはこれまでその恐ろしさに目をつぶったままきてしまった。
本書によれば、2010年のプラスチック廃棄量は約3200万トン。その3割弱は中国が出しているという。次いでインドネシア、フィリピン......と上から6番目までをアジアの国々が占めている。ちなみに日本は14万3千トンで32位。2017年に発表された論文では、「プラごみ全体の88~95%は10本の川から海に流れ込んでおり、うち8本はアジアの川」だと指摘されている。海洋プラスチック問題はアジアの問題でもある。
海洋のプラごみ問題は1980年代初頭、死んだアホウドリや亀、クジラなどの体からプラごみが大量に見つかったことから始まった。それだけでも十分深刻な問題だったはずだが、野生生物保護の話だという受け止め方で、人間を含む地球全体の話として真剣に取り組むことなく問題解決は先送りされた。
しかし、環境問題は、結局は人間にも降りかかってくる。きっかけはマイクロプラスチックの発見だった。プラごみはいつまでも元の形のまま海を漂うわけではない。紫外線や酸素、水の力などで劣化し、次第に細かく砕かれ分解され、小さな破片になる。長さが5ミリ以下になったものをマイクロプラスチックという。肉眼では見えないような小さなものもある。船体から漁網や浮き、人工芝、洗濯機から漏れ出す化学繊維の切れ端......あらゆるプラスチックがマイクロプラスチックになる。
著者らの調査で、南極海から太平洋まで、すべての海にこれらが漂っている。当然ながら、日本周辺の海洋には日本や中国などアジアの国々からのプラごみが集まっており、海水1立方メートル当たり100個以上のマイクロプラスチックが見つかる海域が少なくない。
マイクロプラスチックは市販の魚介類の内臓からも見つかっている。マイクロプラスチックはPCBやDDE(殺虫剤DDTの分解物)などの毒物を吸着する性質があり、マイクロプラスチックを摂取すると、濃縮された毒物を体内に取り込むことになる。
現状は、まだ人体に危険が迫っているわけではない。しかし、社会がプラスチックを本格的に利用し始めてからまだ70年足らず。一方、プラスチックが海で分解されるには数百年から数千年かかる。人類が将来も安全に海を利用し続けられるようにするためには、プラスチックの海洋への流出をすぐにでも止めなければならない。
プラスチックストロー廃止、レジ袋有料化の背景には、こうした巨大で深刻な理由があるのだ。この機会に本書を読み、プラスチックの利用、廃棄の仕方について、一人一人が真剣に考え、行動してもらいたいと切に願う。
BOOKウォッチでは関連で『地球をめぐる不都合な物質』(講談社ブルーバックス)、『えっ! そうなの?! 私たちを包み込む化学物質』(コロナ社)、『クジラのおなかからプラスチック』(旬報社)なども紹介している。
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