本書『セルフケアの道具箱――ストレスと上手につきあう100のワーク』(晶文社)は、カウンセラー歴30年の伊藤絵美さんによる「メンタルの不調から回復する決定版ワークブック」である。ストレスで苦しい、つらい、眠れない......。そんなとき、今日から取り組めるワークを100個紹介している。
「コロナ禍で不安を抱える人にも効く!」と帯にあるように、本書は新型コロナの関連書籍と言えなくもない。「コロナうつ」という言葉も浸透してきて、いまこうした書籍が求められているのだろう。
しかし、最後まで読んでみると別の側面も見えてきた。本書を書いた2019年後半、家族が重大な病気に倒れ、自身はフルタイムで仕事をしつつ対応に追われるなど、伊藤さんにとって「人生最大のピンチの時期」だったという。
「今回は、完全に自分のために書きました。私が私自身のセルフヘルプを全力でできるよう、私自身を応援するために書きました。そして今、私は何とか生きています」
「かみしめるように、毎日、少しずつ書き進めました。......『確かに本書で紹介したワークに、私は日々、助けられているなあ』と実感するばかりです」
伊藤さんは、公認心理師、臨床心理士、精神保健福祉士。慶應義塾大学文学部人間関係学科心理学専攻卒業。同大学大学院社会学研究科博士課程修了、博士(社会学)。専門は臨床心理学、ストレス心理学、認知行動療法、スキーマ療法。洗足ストレスコーピング・サポートオフィス所長。千葉大学子どものこころの発達教育研究センター特任准教授。
はじめに「カウンセリングを通じて、クライアントが回復し、元気になっていく過程に同行させてもらうのは、私にとってこの上ない喜びです」としている。では、何をもってクライアントが「回復した」と言えるのか? それは「セルフケア」が上手になることだという。
「セルフケアとは、『自分で自分を上手に助ける』ということです」
「セルフケアこそが、回復の「鍵」なのです」
ここで言う「セルフケア」とは、「誰かに相談する」「誰かの助けを借りる」も含まれる。「ひとりぼっちで、孤独に自分を助けること」ではない。互いに助け合いながらのセルフケアこそが、回復にとって重要であるという。「これはとても重要なことなので、よーく覚えておいてくださいね」としている。
本書のベースにあるのは「ストレスマネジメント」「認知行動療法」「コーピング」「マインドフルネス」「スキーマ療法」という理論や手法。どれもかなり専門的だが、専門用語を極力使わないよう努めたという。
「人は弱っていたり苦しんでいたりするとき、文字を読むのは非常にしんどいものです。特に長い文章などは、なかなか頭に入ってきません。したがって、本書においては、できるだけ平易な言葉を使い、シンプルな文章になるよう努めました」
同時に、最初から最後まで取り組めば心理学やカウンセリングの知識、スキルが一通り身につけられる構成になっているという。こうした配慮は30年間の現場経験があってこそのものだろう。ただ、「とても重要で、効果があるもの」として「外在化(がいざいか)」という専門用語だけは頻繁に出てくる。
「『外在化』とは、心や身体の現象について、紙に書き出したり、スマホに打ち出したりすることを言います。要するに、皆さんの心身の『内側』で生じた現象を、紙やスマホといった『外側』の媒体に『出す』ということです」
本書は10章構成。各章10個ずつ、計100のワークを紹介している。1つのワークにつき2ページ、そこに広いスペースをとってイラストが添えられている。伊藤さんの堅苦しくない文章と細川貂々さんのほんわかしたイラストの組み合わせが、親しみやすい。
第1章 とりあえず、落ち着く
第2章 誰かとつながる
第3章 ストレッサーに気づいて書き出す
第4章 ストレス反応に気づいて書き出す
第5章 マインドフルネスを実践する(身体、行動、五感を使って)
第6章 マインドフルネスを実践する(思考、イメージ、感情に気づいて手放す)
第7章 小さなコーピングをたくさん見つけよう
第8章 生きづらさの「根っこ」と「正体」を見てみよう
第9章 「呪いのことば」から「希望のことば」へ
第10章 「内なるチャイルド」を守り、癒す
本書は「単なる読み物」ではなく、ワークに実際に取り組んでもらうことを目的としている。100のワークは「自分の苦しさを認めて受け入れる」「自分をつらくさせる『自動思考』に、もう一人の自分が語りかける」「『呪いのことば』を紙に書き、くしゃくしゃにして捨てる」など、思い立ったらすぐできそうなものばかり。
ここで全部は紹介しきれないので、ワークに取り組む前にやることを紹介しよう。それは、次の2つの「ものさし」を使って心身の状態をチェックしてみよう、というもの。
■「苦しさのものさし」......「今、自分はどれだけ苦しいか」
■「しあわせのものさし」......「今、自分はどれだけしあわせか」
それぞれの「ものさし」に、数字を直感的につけてみる。この2つの数字が、現在の心身のコンディションをあらわすものとなる。本書の目的は、「苦しさのものさし」の数値が少しでも低くなっていくこと、「しあわせのものさし」の数値が少しでも高くなっていくこと、としている。
本書を読んでいると、伊藤さんがクライアントと真摯に向き合うカウンセラーであることがわかる。
「ワークに一度だけ取り組んでも、おそらく何も起こりません。......がっかりするかもしれません。しかしここであきらめないでください。絶望しないでください」
「本書のワークの効果は、とてもささやかなもので、だからこそ続けて取り組むことに意味があります」
即効性を謳うものが多いなか、あえて「がっかりするかも」と書いているところにかえって信頼度が増す。冒頭にふれたとおり、本書は伊藤さんが自身のカウンセリングをしながら書いたものである。だからだろうか、著者の言葉がストレートに、ひしひしと伝わってくる。
「どうか皆さん、生きていれば、いろんなストレス体験があり、いろんな傷つきやピンチがあるかと思いますが、本書で紹介したワークを1つでも2つでも実践していただき、生き延びてください。生き延びる限り、自分自身を支え、助けてあげてください」
BOOKウォッチでは、本書のイラストを担当した細川貂々さんと精神科医・水島広子さんの共著『夫婦・パートナー関係も それでいい。』(創元社)も紹介している。
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