年末になり、来年のトレンドを予測する本が書店に並ぶ時期になった。その中で少し異色なのが、本書『イミダス 現代の視点2021』(集英社新書)だ。『現代用語の基礎知識』(自由国民社)と並ぶ現代用語事典として1986年から刊行されてきた『情報・知識imidas』は、2007年版を最後に紙媒体からインターネットに場所を移し、現在は「情報・知識&オピニオンimidas」の名でウェブサイトとして運営されている。
本書は2018年5月から2020年8月までに掲載された記事の中から24本を厳選し、テーマに沿って4章に振り分けたものだ。とりわけ第1章の「コロナの時代」には、誰ひとり予想だにしなかった新型コロナウイルスのパンデミックが、私たちの暮らしや心性にどのような影響を与えたか、気鋭の4人の筆者が論考を寄せている。
ニューヨーク在住の映画作家・想田和弘さんの寄稿タイトルは、「コロナ禍だからこそ鍛えたい『自由』と『権利』と『多様性』」。ロックダウンが行われたニューヨークの同調圧力の強さを、2001年9月11日に起きたワールドトレードセンター事件以降のアメリカにたとえている。
「九・一一で実感したのは、死の恐怖に圧倒された人間は、いとも簡単に、個よりも全体を優先する『全体主義』に与するし、狂暴にもなりうるということである。 この原則をコロナ禍に当てはめると、世界の将来をあまり楽観していられない」
日本社会で「自粛警察」や「コロナ自警団」が跋扈する現状を憂えている。山梨県に帰省し、陽性であることがわかり非難された女性へのバッシングにふれ、当該女性ばかりではなく、バッシングする無数の人々も含めて、すべての人間が自由や権利を剥奪されている、としている。
なぜなら、私たちは誰もがいつ発症するのかわからない「潜在的感染者」であり、運悪く「陽性」と認められたら、女性と同じように袋叩きにあい、社会的に抹殺されかねないからだ。
私たちが大事にしてきた「自由」や「多様性」といった価値が「本物」だったのか「ハリボテ」だったのかが、コロナ禍によって、厳しく試されている、と書いている。
精神科医の香山リカさんは、「新型コロナウイルス感染拡大による『心の死』を防げ!」と題し、「心の相談」には、「やることがない、やりたいのに何もできない」ということが多くの人にとって最大の苦痛になっている、と指摘している。
「『とてつもないがんばり』は、現代人にとっての普遍的な善から、突然、最大の悪へとその価値を変えられてしまったのだ」
今後、多くの人が「自己有用感の喪失」から、うつ病やアルコール依存症、希死念慮など、メンタルヘルス上の疾患を発症する人が世界で激増するのではないか、と憂慮している。
そして、新型コロナウイルスからひとりひとりの身体を守ると同時に、「心の死」をなんとしても防がなければならない、と訴えている。
このほか、中京大学教授の大内裕和さんが、急増する大学生の「バイト難民」への援助について書いている。また、ジャーナリストの安田浩一さんが、「『ポストコロナ』をすさんだ『差別』の時代にしないために」と題し、「反中国」や「反外国人」の動きに警鐘を鳴らしている。
これらの論考が公開されたのは、今年(2020年)4月から6月にかけてだ。その頃のささくれだった社会の雰囲気が伝わってくる。その後、緩んでいたコロナへの警戒感も、冬が近づき、第三波の到来が語られるようになった今、再び同調圧力が強くなるのではないだろうか、と心配される。
今読み返すことにより、来年の対応を準備できるのではないだろうか。
第2章にあたる「変わる法律・制度」では、水道法改正で本格化する水道事業の民営化、改正入管法による外国人労働者の受け入れ拡大、刑法性犯罪規定改正に向けて、などの論考が並ぶ。
第3章にあたる「内政・外交のいま」では、アベノミクスは賃下げ政策、カジノが日本を食いつぶす、など。第4章にあたる「揺れる社会」では、雨宮処凛さんの「『女』というだけで――東京医大等の不正入試問題、その裁判に行ってきた」などが載っている。
『情報・知識imidas』が、こうしたオピニオンも含めたウェブサイトとして続いていることを本書によって知る人も多いだろう。
なお、各社から『現代用語の基礎知識2021』(自由国民社)、『これからの日本の論点2021日経大予測』(日本経済新聞社)、『文藝春秋オピニオン 2021年の論点』(文藝春秋)などが順次刊行中だ。
BOOKウォッチではポストコロナの世界について、『新型コロナで激変する日本防衛と世界情勢』(秀和システム)、『コロナ後の世界を語る――現代の知性たちの視線』 (朝日新書) 、『人類の選択』(NHK出版新書)、『コロナ後の世界は中国一強か』(花伝社)など多数紹介済みだ。
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