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「バンコク」や「ミャンマー」が東京にある!

東京のディープなアジア人街

 少し見ないうちに街の姿が変わっていく――それが東京だ。本書『東京のディープなアジア人街』(彩図社)は、東京に増えつつある「アジア人が多い街」の実情を紹介している。コロナ禍で遠出の旅が厄介になっている時だからこそ、本書などを参考に、近場にある「東京の中のアジア」を訪れてみるのも楽しいかもしれない。

著者は元バックパッカー

 初めにお断りしておかなくてはいけないが、本書は2014年刊。掲載されているデータはやや古い。店がなくなったり、経営者が変わったりしている可能性がある。

 たとえば、本書では、日本には約200万人の在留外国人がいて、8割はアジア人と書いている。ところが19年6月には、中長期在留者と特別永住者を合わせた在留外国人数は282万人になっている。「留学」や「技能実習」、さらに、「帰化者」や日本国籍の「国際児」などを含めると、広義の「外国人」は約400万人に膨らむという指摘もある。「外国人」の人数だけでも短期間のうちに変化している。

 著者の河畑悠さんは1979年生まれ。学生時代にアジアの魅力に取り憑かれ、バックパッカーとしてアジア全域を旅した。大学卒業後、業界紙記者や情報誌の編集などを経験。現在はアジア関連をテーマとするライター。好きな場所はタイのバンコクだという。

 本書は以下の構成。

 第一章 東京のリトルバンコク 錦糸町
 第二章 学生街の中のリトルヤンゴン 高田馬場
 第三章 もうひとつの中華街 池袋駅北口
 第四章 東京の中の隠れインドタウン 西葛西
 第五章 ブームに沸いた韓流の街はいま 新大久保
 第六章 足立区で感じるリトルマニラの風 竹ノ塚
 番外編1 辺境のリトルサイゴン 横浜市「いちょう団地」
 番外編2 ニッポンのブラジル 群馬県邑楽郡大泉町
 番外編3 もうひとつのコリアンタウン 上野・御徒町

ランドマークのビル

 最近は全国紙の都内版や夕刊などでも、しばしばこうした「東京の中のアジア人街」が紹介されている。本書はその走りであり、総集版と言えるだろう。

 著者はアジア各地を探訪し、日本に戻ってからも、池袋で中華を食い、新大久保で韓国料理を満喫、錦糸町でパクチーを買ったりしているうちに、東京のあちこちにアジアの街が形成されつつあることに気付く。改めて取材し、単行本としてまとめたのが本書だ。

 紹介されている「アジアの街」は、新大久保を除けば、まだそれほど有名ではないところが多い。「街」というよりは、関連の店が点在している程度のところもある。東京案内のガイドブックにも、未掲載のところがほとんどだ。

 著者はタイに詳しいから、トップに登場するのは「リトルバンコク」だ。東京・錦糸町と言えば、東京でも、東部の下町や千葉方面の在住者以外にはあまり縁のない街だが、老舗タイ料理店、古式マッサージ、アジア食材店、タイ女性のいるパブなどが多いという。タイの文化を発信する「タイ教育・文化センター」などもあり、タイ語教室も開催されている。

 高田馬場の表の顔は学生街だが、いつのまにかミャンマー人が増えている。周辺には20数件のミャンマー料理店があり、1000人以上のミャンマー人が住んでいるという。駅を出てすぐの11階建てビルがその象徴。各階にミャンマー料理店、旅行代理店、食材店などが入っている。高田馬場という「リトルヤンゴン」の「ランドマークタワー」になっているという。

親に仕送りではなく親から送金

 本書は章ごとに、最初に詳細な地図が掲載されている。その地区のどのエリアが「アジア人街」なのか、一目でわかる。主要なスポットも記入されている。「池袋駅北口」を見ると、地図には「中国人にも人気の火鍋店」「ワイルドな羊の丸焼きが食べられる店」「都内最大規模の中国スーパー」「スタッフは全員中国出身の美容室」「中国カラオケ専門店」「中国人ガールズバー」などがピンポイントで掲載されている。

 それぞれの街を単に外から眺めるだけでなく、長く住む関係者へのインタビューも掲載されている。たとえば「池袋駅北口」では、カラオケ店や火鍋レストランを経営する綾川陽子さん。1988年に来日し、日本の大学院を出て会社勤めを経て起業、2007年に帰化した。池袋の中国人事情に詳しい。街には中国系の自動車学校、保育園や幼稚園、書店、不動産屋など中国人が生活するうえで必要なものは何でもあるという。同郷会も盛んで中国人同士の交流は活発。「この辺にいる人はみんな知り合い」だという。

 かつて日本に来る中国の若者は、日本で働いて中国の親に仕送りしていたが、中国が発展したことで、最近は、親から送金してもらっているケースが増えているのだという。

新宿区の20代の4割は外国人

 新大久保はコリアンタウンとしてあまりにも有名だが、本書刊行時は、日韓関係の軋みとヘイトデモの影響などで冷え切っていた。したがって本書での「章」のタイトルや内容も暗いが、最近は「BTS(防弾少年団)」の世界的な大活躍や「愛の不時着」のヒットなどで、また様子が違っていることだろう。

 18年7月11日の日経新聞によると、東京で暮らす20代の若者の1割が外国人、新大久保や高田馬場のある新宿区では4割に達するという。

 20年7月段階の東京の外国人は約56万人。全人口の約4%。先進国の大都市では、外国人比率が2~3割にもなるところが少なくないようなので、東京はこれからさらにアジア人の街へと変貌するに違いない。

 BOOKウォッチでは関連で、『日本の「中国人」社会』(日経プレミアシリーズ)、『国家と移民――外国人労働者と日本の未来』 (集英社新書)、『13億人のトイレ――下から見た経済大国インド』 (角川新書)、『芝園団地に住んでいます――住民の半分が外国人になったとき何が起きるか』(明石書店)なども紹介している。

 本書の番外編に登場する横浜市の「いちょう団地」については『〈超・多国籍学校〉は今日もにぎやか!――多文化共生って何だろう』(岩波ジュニア新書)に詳しい。このほか在日外国人に関する本は、「2019年BOOK回顧(4)」で多数を取り上げている。

  • 書名 東京のディープなアジア人街
  • 監修・編集・著者名河畑悠 著
  • 出版社名彩図社
  • 出版年月日2014年10月20日
  • 定価本体1300円+税
  • 判型・ページ数四六判・240ページ
  • ISBN9784801300293
 

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