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ネトウヨとの決別の書がまた出た!

保守とネトウヨの近現代史

 本書『保守とネトウヨの近現代史』(扶桑社新書)は、当初『保守が語るネトウヨの正体』として企画された、という書き出しで始まる。内部の事情を知る人間が「保守」「ネトウヨ」の世界を解説して伝えようという趣旨の本だ。

安倍政権を批判する著者

 著者の倉山満さんには注目していた。「週刊SPA!」に「言論ストロングスタイル」を連載、評者は毎週愛読している。最初は経歴からガチガチの「保守」かと思っていたら、時事的なテーマに是々非々の態度で臨んでいるので、精読するようになった。安倍政権にも厳しいことを書いてきた。

 「歴史家は安倍政権を長いだけで何もできなかった政権と断罪するだろう。そして、そんな安倍晋三にぶら下がっただけの『保守』『ネトウヨ』など、日本の歴史から忘れ去られるだろう。そもそも活動を知られているかすらも、疑問だが」

 これが、倉山さんの現在のスタンスだ。

 こんな経歴の人だ。1973年香川県生まれ。憲政史研究者。1996年、中央大学文学部史学科を卒業後、同大学院博士前期課程を修了。在学中より国士舘大学日本政教研究所非常勤研究員を務め、同大学で日本国憲法を教え現在に至る。2012年、希望日本研究所所長を務める。著書に『誰が殺した? 日本国憲法! 』(講談社)、『検証 財務省の近現代史』(光文社新書) 、三部作『嘘だらけの日米近現代史』『嘘だらけの日中近現代史』『嘘だらけの日韓近現代史』(いずれも扶桑社新書)など。ブログ「倉山満の砦」やコンテンツ配信サービス「倉山塾」でも積極的に言論活動を行っている。

自民党は「保守」ではない

 本書の構成は以下の通り。

 序章 自民党は「保守」ではない
 第1章 右翼は「保守」と異なる存在
 第2章 「保守」論壇は、ソ連が崩壊しても何もできなかった
 第3章 平成になり、ようやく「保守」が発言権を得た
 第4章 拉致と安倍と、「保守」の舞い上がり
 第5章 民主党政権が「ネトウヨ」を生んだ
 第6章 天皇陛下に弓を引く「保守」言論人たち
 終章 『ムー』化する「保守」と「ネトウヨ」

 序章で、戦後政治と「保守」を概観し、自民党と「保守」勢力は乖離していた、と書いている。

 「歴代政権のほとんどは『保守』の望む政策は行っていない。それどころか、明らかに非『保守』的な親中政策が、最近四十五年間の主流である」
 「自民党が行ってきた政策は一部を除いて『保守』ではないし、『保守』言論界にも背を向けている」

「保守」言論界の対立の歴史

 著者は「保守」に詳しいだけに、これまでの「保守」言論界の対立、内紛にかなりのページを割いている。古くは司馬遼太郎と福田恆存との対立。「司馬が雑誌『正論』に圧力をかけて、福田に執筆と講演をさせないように妨害」していた事実を記している。

 「新しい歴史教科書をつくる会」の内紛の経緯、漫画家小林よしのりさんを敵だと「保守」が認識している背景などが詳しく書かれている。

民主党政権が「ネトウヨ」生んだ

 「第5章 民主党政権が『ネトウヨ』を生んだ」が興味深かった。民主党に投票した普通の人が、「保守」「ネトウヨ」に大量流入したというのだ。

 民主党政権の失態に韓国批判が加わったと見ている。嫌韓本ブームが起こり、「保守」にはアメリカ、ソ連、中国に対するコンプレックスがある。「他の誰に負けても、貴様だけには負けない」という情念がブームの原動力になったという。

「ムー」化する「保守」「ネトウヨ」

 終章では、オカルト専門誌「ムー」と「保守」「ネトウヨ」との類似性を指摘している。「保守」「ネトウヨ」言論人の発言を雑誌やネットで追うと、以下の発言があるという。

 ・コロナウイルスは中国が開発した生物兵器である。
 ・世界を支配しているのはディープステートである。
 ・ロシア革命はユダヤ人が起こした。
 ・プーチンは反中親日だ。
 ・金正恩は死んでいる。
 ・コロナウイルスは正露丸を飲めば治る。

 事実にこだわることなく独特すぎる手法で客の興味をそそる手法が共通しているというのだ。

 ところで、本書に「保守」の定義は、明確には示されていないように思った。著者は「本書の中で探し出し、考えていただければ」と結んでいる。「保守」の定義が各人バラバラであることが、「保守」内部のバッシングや対立の原因ではないだろうか。

 BOOKウォッチでは、文筆家の古谷経衡さんが『毒親と絶縁する』(集英社新書)において、ネット右翼と決別した理由を取り上げたばかりだ。また、『ネット右派の歴史社会学』(青弓社)、『「右翼」の戦後史』(講談社現代新書)、『保守と大東亜戦争』(集英社新書)などを紹介済みだ。

  • 書名 保守とネトウヨの近現代史
  • 監修・編集・著者名倉山満 著
  • 出版社名扶桑社
  • 出版年月日2020年9月25日
  • 定価本体820円+税
  • 判型・ページ数新書判・221ページ
  • ISBN9784594085520
 

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