書きたい気持ちはあるんだけど、書くことがない! 書き始めても、途中で混乱してしまう! ていねいに書いているつもりなのに「わかりにくい」と言われる! 時間をかけて書いたのに、あんまり読んでもらえない! 「こんなの、おもしろいのかな?」といつも不安になる! ......。
メール、LINE、Twitter、Facebook、note、ブログ、企画書、依頼書、報告書、議事録、履歴書など、日常生活で文章を書く場面はわりとある。しかし、文章の書き方をじっくり学ぶ機会はほぼない。基本的に、自分の経験やセンスを頼りに書くことになる。そもそも文章には正解がなく、一体何をどう磨いていったらいいのかもよくわからない。その結果、冒頭のような悩みを抱えることになる。
本書『書くのがしんどい』(PHP研究所)は、書くことにつまずいている人の心の内をズバリ言い当てたようなタイトルが印象的だ。著者の竹村俊助さんは、これまで50冊以上を手がけてきた編集者。本書の帯には「担当作累計100万部超のヒットメーカーが明かす たった5分でバシッと伝わる 新しい時代の文章術決定版!!」とある。文章術の本はいろいろあるが、スッと目に飛び込んでくる率直なタイトルに興味を持った。
竹村さんは、1980年岐阜県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、日本実業出版社に入社。書店営業とPRを経験した後、中経出版で編集者としてのキャリアをスタート。星海社、ダイヤモンド社を経て、2019年株式会社WORDS代表取締役に就任。SNS時代の「伝わる文章」を探求している。
主な編集・ライティング担当作は『いちばん大切なのに誰も教えてくれない段取りの教科書』(水野学)、『ぼくらの仮説が世界をつくる』(佐渡島庸平、以上ダイヤモンド社)、『メモの魔力』(前田裕二)、『実験思考』(光本勇介、以上幻冬舎)など。オンラインメディア「note」に投稿した「WORDSの文章教室」は累計150万PV超。本書は「note」の記事を書籍化したもの。
はじめに、竹村さんは「ぼくはもともと書くこと自体は好きでもないし、苦手です。だから『書くこと』を仕事にするとは思っていませんでした」と打ち明け(ぶっちゃけ)ている。しかし、編集者として他人の文章を修正する中で、結果的に書くことができるようになっていたという。もともとは書くことに悩んでいる読者と同じところにいた人なのか、と親近感が湧く。
本書は竹村さん初の著書。「まだ何も成し遂げていない自分が偉そうに『著者』なんぞになっていいものか......」と迷っていたが、「書くのがしんどかった竹村さんがどうやって書けるようになったのか。その追体験をしてもらえるような本にしましょう」という担当編集者の言葉に押され、上梓したという。
本書で竹村さんは書くことの「しんどさ」の原因を突き止め、ひとつずつ対処法を用意。自身が10年以上かけて編み出した「誰でも書けるようになる」スキルとノウハウをぎっしり詰め込んでいる。それらを実践して身につけたころには、「しんどい」が「楽しい」に変わっているのを実感できることだろう。本書の目次は以下のとおり。
CHAPTER1 書くことがなくてしんどい――書く以前の「取材」と「思考法」
CHAPTER2 伝わらなくてしんどい――「わかりやすい文章」の基本
CHAPTER3 読まれなくてしんどい――文章を「たくさんの人に届ける」方法
CHAPTER4 つまらなくてしんどい――商品になる「おもしろい文章」はこうつくる
CHAPTER5 続かなくてしんどい――書くことを「習慣」にする方法
CHAPTER6 書けば人生は変わる――「しんどい」の先にある新たな自分
はじめに「実を言うと、文章なんて誰だって書けます」とある。たとえば、LINEは書けるのに長文の記事は書けない。ツイートはできるのにあらたまった文章は書けない。メールは書けるのにコラムやエッセイは書けない。つまり文章が書けない原因は「スキル」ではなく、「書くことに対する考え方や気の持ちよう、つまりメンタルにある」、「メンタルさえ修正すれば、誰だって書けるようになる」というのだ。
さまざまなポイントから、ここでは2つ紹介しよう。まず、気合いを入れて「さあ、書こう!」と思ったとき、「自分の中から」文章を生み出そうとする。この「生み出そう」というメンタルがそもそも間違っているということ。実は自分の中には何もないのだという。
竹村さんの考えでは、「書く」という言葉もよくない。「文章」「書く」「ライティング」という言葉には目的がなく、書くこと自体が目的になっているという。「メールも、LINEも、誰かに何かを伝えようとするから自然と『書ける』」としている。
「文章教室の第一歩は、ここです。『伝えよう』とすればいいのです。すると『何かを生み出そう』と肩に力を入れなくても、自然と言葉は出てきます」
もう一つは、人は文章を「ゼロから生み出す」のは難しくても「すでにある文章を修正する」のはできるということ。「著者と編集者の一人二役」をやればいいという。
「まず下手でもいいから、何も気にせずダーッと伝えたいことを書きなぐる。そして、そのあと冷静になって『編集者』の立場で文章を見直して、整えていく」
「1行書いては消し、1行書いては消し......」「文章を書くというのは、なかなかしんどいものですよね?」――。経験値とセンスにもよるだろうが、評者はこのタイプ。文章を書いている間は、1時間単位であっという間に過ぎていく。最初の数行だけでも信じがたいほど時間を費やすことも......。これは目から鱗のアドバイスだった。
個人的に印象深かった「著者と編集者の一人二役」に関連して、CHAPTER1「最初から『完ぺき』を目指さない」にもふれておきたい。あの村上春樹さんですら、何度も書き直しながら作品を磨いていることを例に挙げ、「多くの人は自ら生み出した『よくわからない文の塊』を試行錯誤しながら整えていく」としている。
本書をつくるときも、竹村さんはとにかく素材をドーンと用意。そこから、いらないところを削っていき、ようやく最後に「輪郭」が見えてきたという。
「最初は隙だらけでいいのです。矛盾していてもいい。あとで直せばいいのだから、まずはどんどん書き進めることのほうが大切です。それに多少『隙』のある文章であっても、読者は脳内で補完してくれます」
イメージは「漆塗り」のように書くこと。一気にバーッと書いて最後まで行き、また最初に戻る。何度も重ねて書き直す。全体が見えることで、モチベーションも下がりにくい。そしてやってはいけないのが「編み物」のように書くこと。前から一文一文編んでいこうとすると、進むのが遅くなり、途中で挫折してしまうのだという。
おそらく書き手一人ひとりにつまずきポイントがあり、いつも同じ負のスパイラルに陥ってしまうものではないだろうか。本書は、なかなか抜け出せなかった穴から引き上げてもらったような、視界が開けたような発見が多い。
「本書のノウハウを使って、文章のクオリティを上げていってください。毎日1%ずつでもいいのです。そうすれば3年後には、とんでもない場所に到達することができるはずです」
「誰でも、いますぐに、人生を変えられる方法。それが『書く』ということです。......人生のあらゆる場面で書く機会が訪れますが、そのときに質の高いアウトプットができれば、そのたびに人生は『上方修正』されます」
本書は「書く」にまつわる悩みをなるべく多くつぶしていける内容になっている。書くことに関心があり、書くことに向き合い、自分の腕を磨きたい人にとって、間違いなく学ぶことの多い一冊になるだろう。
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