編集者やライターになりたいと思っている人に向けて書かれたのが、本書『編集の教科書』(リーダーズノート出版)である。著者の宇留間和基さんは、新聞(毎日新聞、朝日新聞)、雑誌(朝日新聞出版)、そしてネットメディア(ジェイ・キャスト)と異なるメディアを経験してきた「プロ編集者」。編集と取材のノウハウを惜しみなく公開している。
この手の本はほかにもあるが、本書がユニークなのは、第1章が「タイトル」の付け方から始まっていることだ。それは、紙媒体であろうとインターネットであろうと、編集にとって一番大事なものは、「タイトル」であり、「見出し」であると、宇留間さんが確信しているからだ。
週刊誌「AERA」の編集長時代、365日24時間、タイトルばかり考えていたという。タイトルによって雑誌は売れ行きが左右され、ネットではPVが大きく変わる。普通、編集長やデスクがタイトルを付けるが、本書では実際にタイトルを付ける練習から始まる。
『旧約聖書』のダビデ王の話を題材に物語を読みながら付けていく。直球型、ディテール型、隠すタイトル、並列・対比型、問いかけ型、脅し型など14のパターンを解説している。
その中には「ダビデが水浴人妻と略奪愛 軍人の夫を殺害した残忍な手口」など、現代の週刊誌にあるような面白いタイトル例も出てくる。
雑誌の編集では、タイトルを付けるのは最後だ。その前に記事の取材と執筆をしなければならない。本書の第2章は「取材と書くこと」。インタビューや取材の心構えや基本を説いている。宇留間さんの取材歴がふんだんに出てくる。例に登場するのが政治家の小沢一郎氏や橋本龍太郎氏なので、飽きない。
そして第3章は「編集と企画」。雑誌は面白さが命。魅力的なタイトルの記事をつくるためには、面白い企画が不可欠だ。クリエイティブの練習として、「初心者はどんどん真似よう」などの心得のほか、ジェームズ・W・ヤングの古典的名著『アイデアのつくり方』から、二つのものを組み合わせる発想法を紹介している。
さらに、宇留間さんオリジナルの「エクセル発想法」も。列にテーマを展開したことばを、行にはまったく関係ないものを書き込む。その組み合わせから発想するのだ。初心者は毎日、一個はアイデアを作ってほしい、と書いている。
宇留間さんは編集志望者には雑誌編集者になることを勧めている。「雑誌脳」をつくりあげるチャンスがあるからだ。あらゆる素材に情報のアンテナを張り巡らせ、かついろいろな切り口を自分で考え出してコンテンツをつくりあげる「頭脳」のことだ。
新聞は「型」、雑誌は「面白さ」を追求する。だから新聞記者が必ずしも雑誌で通用する訳ではないという。
本書では、「週刊朝日」の黄金期を築いた扇谷正造や「週刊新潮」のカゲの編集長と言われた斎藤十一のポリシーを紹介している。いまはあまり取り上げられることはない二人だが、週刊誌のつくり方を知る上で参考になるだろう。
週刊誌は各誌とも部数減が著しい。一方で、週刊誌のWEBがPVを伸ばしている。ネットの時代といわれるが、本書が冒頭でふれているように、ヤフーニュース自体が書いている記事はほとんどない。多くは新聞社やテレビ、雑誌、独立系のネットメディアが配信したものだ。
宇留間さんはJ-CASTニュース編集長を経て、現在、ジェイ・キャストのニュース事業本部本部長をつとめる。ネットメディアには、新聞や雑誌など紙媒体から移籍してきた人が少なくない。編集の基本は紙もネットもそれほど変わらない。
ところで、本書の例題が『旧約聖書』を題材にしているのは、そこに人間という存在を知るヒントがあるからだという。そして、編集者という仕事はAIがどんなに発達してもなくならない、と宇留間さんは力説する。ありそうでなかった「編集読本」だ。
当サイトご覧の皆様!
おすすめの本を教えてください。
本のリクエスト承ります!
広告掲載をお考えの皆様!
BOOKウォッチで
「ホン」「モノ」「コト」の
PRしてみませんか?