読むべき本、見逃していない?

書物を愛し、街をさ迷い歩いた路上の賢者、坪内祐三さんの生涯

  • 書名 ストリートワイズ
  • 監修・編集・著者名坪内祐三 著
  • 出版社名晶文社
  • 出版年月日1997年4月20日
  • 定価本体2300円+税
  • 判型・ページ数四六判・293ページ
  • ISBN9784794963017

 評論家の坪内祐三さんが、2019年1月13日亡くなられた。コラム、書評、評論など旺盛な執筆活動で知られた坪内さん。『靖国』、『古くさいぞ私は』、『慶応三年生まれ 七人の旋毛曲がり』、『新書百冊』、『人声天語』、『酒中日記』など四十数冊の単著があり、共著も多い。同世代の評者も愛読してきたが、訃報に接し本棚を眺めていると本書『ストリートワイズ』(晶文社)が目に飛び込んできた。1997年に刊行された坪内さん最初の本である。その後、講談社から文庫化された。

雑誌「東京人」の編集者やめて古書の世界に

 坪内さんの経歴を簡単におさらいしておこう。

 1958年東京都渋谷区生まれ。早稲田高校から早稲田大学第一文学部に進み、同大学院英文科の修士課程を修了。就職には苦労したようだ。自著で明かしているが、ダイヤモンド社役員だった父のコネで都市出版に入社、雑誌「東京人」の編集者となる。

 その後フリーの編集者、もの書きとして一本立ちする過程を、『ストリートワイズ』のあとがきにこう書いている。

 「今から七年前、1990年秋、私は別に将来のあてもないまま、雑誌『東京人』編集室をやめた。(中略)一年半ぐらいは何とか暮らして行けるだけの貯金はあった。もちろんそれ以上に、時間は、たっぷりとあった。ちょうどそれは文化人類学者の山口昌男さんがのちに『「敗者」の精神史』に結実する明治大正の面白本や雑誌を古書展で探しはじめたころである。(中略)山口さんに誘われて私は毎週末のように古書展に通いはじめた。そして私もまた明治大正の面白本や雑誌、人物にズブズブに引かれていった」

 その成果は朝日新聞社の「月刊Asahi」(1992年7月号)の特集「20世紀日本の異能・偉才100人」などや文藝春秋の「ノーサイド」(1994年8月号)の特集「明治大正昭和異色の『父と子』100組」などに実をむすぶ。

広がる関心とテーマ

 「私は、これまで、それほど強い目的意識もなく、成り行きで生きて来た。成り行きの中で出会った縁というものを、私は、大切にする」

 さまざまな編集者、学者、思想家、文学者との出会いから、次々にテーマが生まれ、書いた人だった。本書に収められた文章のタイトルと掲載誌を少し挙げると、こんな感じだ。幅広い関心のありようと右から左までウイングの広いメディアとの付き合いがうかがえる。

 一九七九年の福田恆存「文學界」1995年2月号
 丸山眞男か福田恆存か「諸君!」1996年11月号
 十二月八日の力道山「思想の科学」1994年2月号
 もうパチンコ屋へなんか行かない「正論」1996年5月号
 「本場(アメリカ)」という他者が消える時「Ronza」1995年12月号

 福田恆存との出会いを本書の冒頭に掲げているように、もっとも心酔していたようだ。劇団昴の事務局員を募集していた福田のもとを訪ねた21歳の坪内青年。「ただ一つ憶えているのは、自分の孫ほどに年の離れた一介の大学生相手に、少しも偉ぶることなく、一人前の会話相手として対等に接してくれる福田さんの姿である」と書いている。

 左翼的な「進歩的文化人」からも右派からも批判されることがあった思想家、福田恆存。政治論のレベルでとらえて判断するのはまったくわかっていない、福田恆存の文章はすべて人間論、自分をも含めた近代日本知識人論である、と断言している。

 本書を少し離れたところから坪内さんの仕事を俯瞰してみよう。古書に限らず、新刊本、文庫、新書と本にかんしては目利きだった。本にかんする週刊誌のコラムや書評は信頼がおけた。基本は「本」だった。

 そこからさまざまなテーマに関心が枝分かれしていった。スポーツやテレビにも詳しかった。

16年続いた酒気帯び対談

 座談もうまかった。文芸評論家、福田和也さんとの文壇アウトローズの世相放談「これでいいのだ!」は「週刊SPA!」の目玉企画で16年続いた(2002年7月から2018年4月まで)。扶桑社から『酒気帯び時評』シリーズとして何冊も刊行された。評者はその対談読みたさに、同誌を毎週欠かさず買い求めた。

 2017年に出た『右であれ左であれ、思想はネットでは伝わらない。』(幻戯書房)が、意外なことに坪内さんの3冊目の評論集であり、総合雑誌を舞台にした「論壇」論だった。イデオロギー的なものに幻惑されずに自身の思考を貫くことを訴えていた。

 それはまさに尊敬した福田恆存の姿であり、坪内さんは雑多な関心、テーマを彷徨した結果、最初の本の文章に回帰したようにも思える。

 ところでタイトルの「ストリートワイズ」とは何か。英和辞典よりもニュアンス豊かな意味を込めて、こう書いている。

 「街を一つの大きな学習の場として、その学習の場を、時に自分を見失いそうになりながら、さ迷い歩いていくうちに、獲得した知識や知恵、それがストリートワイズだ」

 坪内祐三の生涯そのものではなかっただろうか。

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