平成も終わろうとしているいま、62歳から12歳まで10歳違いの6人の男性の生涯を追った物語である。6人に相互関係はなく、物語は彼らの親の世代からの誕生と家庭環境、学歴、仕事、結婚などの履歴を淡々と記述するばかりである。本書では名前を持った6人の登場人物よりも、その両親、祖父母にかんする記述の方が多いかもしれない。
62歳最年長の昭生の父親が生まれた大正の末近くから始まるから、約100年の日本人の生活誌だ。心が浮き立つような華やかなエピソードも驚くような悲劇もなく、平凡といえば平凡な人生が微細に描かれている。橋本治の作家生活40周年記念作品と銘打った『草薙の剣』(新潮社)は、そんな小説だ。
その中に、いくつか共通点がある。自分が行けなかった上級学校に子供を進学させながらも、子供との付き合い方がわからず、その後の進路、就職についても子供任せの父親。母親たちは20代前半で会社の同僚や近所の紹介で結婚し、子供を産む。夫婦の会話はどこでもあまりない。白黒テレビ、カラーテレビにはじまり、ゲームソフトなどの娯楽のコンテンツが家族だんらんの時間を侵食していったこと。ごく普通に男性も女性も不倫し、離婚もざらであること。
もちろん本書は小説なので、社会学の本に出てきそうな、上記のデータ、傾向を無造作に書いてはいない。それぞれの家族のストーリーとして描いているのだが、どれも似たような印象を受けてしまうのだ。
団塊の世代の少し下の世代、新人類と呼ばれた世代、就職氷河期世代、ゆとり世代、まだ名前のない世代と世代論的には違いはあるのだが、今の男性は基本的なところであまり差はないのだろうか。
「自分はなぜこんなところにいるのだろう? 自分のいる、この暗いところはなんなんだろう?」という登場人物のつぶやきは、平成人のよくある心象風景かもしれない。のっぺらぼうな時代を象徴するような小説である。
橋本治は今年、『九十八歳になった私』(講談社)を刊行したばかり。旺盛な執筆力は衰えていない。ちなみにタイトルの「草薙の剣」と内容とは特に関係がないようだ。
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