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津田大介氏は大学のゼミで「同和問題」を研究していた!

ネットと差別扇動

 ネットには様々な中傷が書き込まれる。中には差別的なものも少なくない。本書『ネットと差別扇動――フェイク/ヘイト/部落差別』(解放出版社)はその中でも部落問題を軸にしている。「ネット版部落地名総鑑」事件などの具体例をもとに、「ネット差別」=「晒し差別」の現状を明らかにし、被害にあったときの対処法も示している。

「ネットファースト」に近い世代

 本書は2018年12月に開かれたシンポジウム「ネット社会と人権確立」を再構成したもの。登壇者は谷口真由美、荻上チキ、津田大介、川口泰司の4氏。

 シンポジウム時の略歴によると、谷口氏は、1975年生まれ。大阪大学非常勤講師。国際人権法、ジェンダー法などが専門分野。TV、ラジオ、新聞のコメンテーターなども。荻上氏は1981年生まれ。評論家。メディア論を中心に、政治経済、社会問題、文化現象まで幅広くカバーしている。ラジオ番組『荻上チキ・Session‐22』(TBSラジオ)のメインパーソナリティとして、2015年度、16年度ギャラクシー賞を受賞(DJパーソナリティ賞およびラジオ部門大賞)。

 津田氏は1973年生まれ。ジャーナリスト兼メディア・アクティビスト。ポリタス編集長。川口氏は78年生まれ。大学卒業後、社団法人部落解放・人権研究所、社団法人大阪市新大阪人権協会を経て、2005年より一般社団法人山口県人権啓発センター事務局長。

 全員70年代以降の生まれ。「ネットファースト」に近い世代が専門知識をもとにネットにおける差別問題を論議した本と言える。

「朝まで生テレビ!」で知る

 ちょっと意外だったが、津田氏は大学のゼミで同和問題を研究、ゼミ論も同和問題をテーマにしていたこと。もともとは中学生の時に「朝まで生テレビ!」で同和問題を正面から取り上げた回を見て衝撃を受け、それから関心を持つようになったという。自分が社会の不条理に興味を持つきっかけになったのは部落問題であり、ネット上にまん延している差別やヘイトスピーチの問題は、自分が決して無視できない「一丁目一番地」だと語っている。ネットのポジティブな可能性を説いてきた自分だからこそ、ネット上の差別やヘイトスピーチの問題にも正面から取り組まなくてはいけない、とも。

 津田氏は「あいちトリエンナーレの芸術監督」として「表現の不自由展・その後」の当事者にもなった。

 荻上氏は学生時代にメディア論を専攻。自分のブログでネット上のデマや差別の問題も書いてきた。長く時事問題の解説サイト「シノドス」の編集長を務めていた。NPO法人「ストップいじめ!ナビ」代表理事。最近はセクシュアリズムやジェンダーの問題について、ウェブ上でどのような差別が起きているかを計量分析と社会心理の方法を使って調査しているという。

 津田氏と荻上氏もネット時代の論客として有名だが、「差別問題」との関わりが意外に深く長いということを知った。

100年の運動が破壊された

 本書は「『部落差別解消推進法』施行とその意義」「巨大プラットフォーム事業者『GAFA』とヘイトスピーチ」「ネットの普及で顕在化する『晒し差別』の実態」「『メディア・リテラシー』ではヘイトは防げない」「『新しい差別』を生み出しているもの」「差別の被害者救済をどう実現するか」「ヘイト・フェイク情報の法的規制を考える」「ネットにおける差別をどう止めるか」「質疑応答」という構成。

 「晒し差別」ではネットで「部落を暴き、晒す鳥取ループ・示現舎」について多くのページが割かれている。川口氏は、彼らのやっていることは「100年にわたる水平運動、解放運動、身元調査規制の運動、そして、同和行政の半世紀に及ぶこの成果を一瞬にして破壊した」と怒り、深刻に受け止めている。すでに本件は民事訴訟になっているそうだ。

 「ネット検索の罠」では「Yahoo!知恵袋」なども取り上げられている。荻上さんはネットで自分の名前を検索した時、「荻上チキは日本人ですか、韓国人ですか」という問いを見つけたことがあるという。「どこの国の人かわからないけど反日です」というのがベストアンサーになっていたりする。読んだ人は「そうかな」と信じてしまう。サイトのつくり自体が結果的に、誤解を招く答えや差別的結論を生み出しかねない。

 あるいは、最近話題のAIスピーカー。質問すると、「ウィキペディアによりますと・・・」という答えが返ってきたりする。本当に「ウィキ」は信頼できるのか。ちなみに、評者がウィキペディアで津田大介氏の名前を検索すると、書かれている内容について、「編集者が恣意的にピックアップしたデータを書き留めている」という運営者による警告が出ていた。つまり誰かが津田氏について恣意的な編集や書き込みをしているということだ。「ウィキ」にはそうした意図的な「操作」が可能な部分があり、責任の所在もよく分からない。

ドイツは「ネット執行法」

 「ヘイト・フェイク情報の法的規制を考える」の項目では、ドイツの「ネット執行法」について言及されている。2017年6月に成立した同法は、ヘイトスピーチやフェイクニュースがソーシャルメディアに投稿された場合、事業者が24時間以内に削除する義務や、苦情受付の窓口の設置、半年ごとの報告書などが義務付けられているそうだ。罰金もある。いろいろと試行錯誤中だが、事業者への対応は日本よりも進んでいる。

 BOOKウォッチで先日紹介した『インターネットにおける誹謗中傷法的対策マニュアル(第3版)』(中央経済社)によると、17年に東名高速で起きた「あおり運転死亡事故」に関しては、ネットにデマ投稿した11人が特定され、8人に対して民事訴訟を起こされている。同書によると、東京地裁が扱ったネット関連の仮処分申請は、08年には35件しかなかったのに、17年には755件に急増しているそうだ。日本でも裁判になるケースが増えている。

 ネットでは匿名が横行しているが、一定のやり方で追跡すると「容疑者の特定」が可能だ。ネット事件に長けた若い世代の弁護士も目立つようになっている。匿名のつもりで投稿しても、実名が突き止められ、損害賠償など法的対応が増えているということはもっと知られていいのではないか。

 2019年12月28日の朝日新聞によると、最近ではネットのヘイトスピーチで藤沢市の男性が迷惑防止条例違反で罰金30万円の略式命令。大阪市ではヘイトスピーチ抑止条例に基づき、「保守速報」運営者ら発信者2名の氏名が公表されている。

  • 書名 ネットと差別扇動
  • サブタイトルフェイク/ヘイト/部落差別
  • 監修・編集・著者名谷口真由美、荻上チキ、津田大介、川口泰司 著、部落解放・人権研究所 編
  • 出版社名解放出版社
  • 出版年月日2019年10月21日
  • 定価本体1400円+税
  • 判型・ページ数四六判・154ページ
  • ISBN9784759211030
 

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