2年前にBOOKウォッチでも紹介した『モンテレッジォ小さな村の旅する本屋の物語』(方丈社)は、ノンフィクション大賞2018にノミネートされ、6刷3万部を突破する人気となった。イタリアの小さな村の本にかかわる歴史に日本でも光が当たったのだ。
本書『もうひとつのモンテレッジォの物語』(方丈社)は、イタリア在住の著者、内田洋子さんが、村との出会いを綴ったエッセイだ。また村の子供達が村の歴史を絵本にした『かごの中の本 モンテレッジォ 本屋の村の物語』(95ページ)も収められている。前作の絵本版という内容で、合わせて楽しめる。
モンテレッジォは、イタリア北部の山中の村だ。内田さんが初めて取材に行った時も、石畳の道が続く閑散な様子に「メモのしようがない」と書くしかないありさまだった。
前作では、村の先祖たちが古本を売り歩いて生計を立てていたことを紹介した。19世紀中ごろには、村の人口850人のうち71人が「職業は本売り」だったという。やがて子孫はイタリア各地に移住し、書店や古書店を営むようになった。
本書はその取材の過程を書いたメイキング本でもある。すべてカラーページで、内田さんが撮った写真が美しい。住民は32人しかいないのに、バールは毎日開いている。店にはいつも客がいて、そこは居間であり、会議室であり、待合室、遊戯所、荷物預かり所、交番だった。
村には栗の木しかなかった。だが、村人は必要以上には取ろうとはせず儲けようとはしない。足りないことだらけの生活を送っているが、充足しているという。
村との接点は出来た。内田さんは子供達に助けてもらうことを思いつく。小学校に飛び込み、校長先生と交渉する。日本の子供達との絵の交流が決まった。
モンテレッジォを含む10の村から児童は通っている。子供達は、モンテレッジォの村の歴史を絵に描いた。それが『かごの中の本 モンテレッジォ 本屋の村の物語』だ。国際文学テザウルス・コンクールの「未来の才能」部門で最優秀賞を受賞し、その日本語版が本書に収められている。
1816年に火山が噴火し、生活に困った村人たちが行商を始めた。最初は主な売り物はカミソリ用の砥石だった。やがて月ごよみや年鑑、本に。中には禁書もあり、「文化の密売人」となったことなども素朴なタッチで描かれている。
本を運んだかごは、やがて荷車となり、露店を始めるようになり、本はますます売れた。1952年には露天商賞が設けられ、第1回の受賞はヘミングウェイの『老人と海』だった。翌年ヘミングウェイはノーベル文学賞を受賞した。そんな様子も描かれている。
巻末には子供のこんな感想が載っている。
「私が最もびっくりしたのは、モンテレッジォのような小さな村に最初の出版社のひとつを作った人が生まれ、世界中にたくさんの本を売りにいった、ということでした」
2018年春には、村の小学校の子供達10人が日本に来た。偶然にも彼らが選んだ宿泊先は、「本の街」東京・神田の神保町だった。
「本の露店や書店を開くのは、町中の便利なところに限る」のは村の行商人達が伝えてきた商売の鉄則だった。それにならったかのような選択だった、と内田さんは書いている。
日本の交流の受け入れ先だった目黒区立五本木小学校を訪問しての飛び入り授業のほか、彼らはガイドブックを持たずに地図を片手に東京を歩き回った。
「これこそが、かつて深い山奥から険しい旅を経て各地に本を届けに回った行商人達の真性なのだろう」
モンテレッジォは、日本で言えば、「限界集落」のようなところだが、村人の表情はいちように明るい。何が彼我の違いなのだろうか、と本書の写真を見て、読者は思うだろう。
「小さな村の旅する本屋の物語は、これからも続く」と、内田さんは結んでいる。
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