最近、書店員が書いた本が多いなと思っていたところに届いたのが本書『まちの本屋』(ポプラ文庫)である。現場は岩手県の盛岡市にある「さわや書店フェザン店」。東北の駅ビルの書店で、どんなことが行われていたのか?
たとえば「文庫X」というキャンペーンがあったのを覚えているだろうか。「どうしてもこの本を読んで欲しい」という書店員の思いが書かれたカバーがかかり、さらにビニールで梱包され、内容もタイトルも分からない。税込810円という価格と小説ではない、ということしか明かされなかったにもかかわらず、「文庫X」は同店で2000冊売れた。
これに共鳴した全国の600店以上で、この展開が始まり、最終的に18万部に達した。数カ月後に覆面を明かすと、清水潔著『殺人犯はそこにいる 隠蔽された北関東連続幼女誘拐殺人事件』(新潮文庫)だった。地方の書店発の企画が全国の読者に通じたのだった。
著者の田口幹人さんは同店で、さまざまな企画を行った名物書店員だった。「文庫X」は、同店で働くために神奈川県から引っ越してきた同僚のアイデアだった。
ミリオンセラーとなった百田尚樹著『永遠の0』(幻冬舎)も単行本として発売され1年間はまったく売れなかったが、先輩の一言で売り込みに取り組んだ。読者から届いたハガキをラジオで読んだり、考えられることは何でもやったそうだ。最初に仕入れた1000冊を売るのに1か月かからなかったのは、これまで「耕してきた」お客さん全員に勧めたからだという。そして彼らが口コミで広げてくれた。同店だけで同書の文庫は1万冊以上売れたというからすごい。
宣伝用のPOPももちろん手作りだ。「どうして岩手県に原発がつくられなかったか」というPOPを東日本大震災の後、ある郷土本につけた。『吾が住み処ここより外になし』(萌文社)。著者の岩見ヒサさんは岩手県の元開拓保健師。岩手県でまっさきに原発の反対運動をした女性だった。本は何度も重版されたという。
ここまで書くと、田口さんはかなりのやり手と思うだろう。でも本書にはさまざまな失敗談が書かれている。秋田県境に近い山の中のまちにあった「何でも屋としての本屋」が田口さんの実家だった。盛岡市の書店で修業した後に、実家の書店を継いだが、売上が減り廃業。盛岡市の「さわや書店フェザン店」に入ったのだった。そして本屋を「耕す」ことをこころがけたという。
単行本として刊行されたのが2015年。その後、著者は「さわや書店」を退職、東京の出版取次会社に移った。「文庫版あとがき」で「敗北からしか学べないことがたくさんあった」と書き、「読書欲は、読みたい本との出会いの蓄積から産まれる」と結んでいる。本と読者をつなぐ情熱は衰えていない。
さわや書店は『思考の整理学』(ちくま文庫)を書店店頭のポップをきっかけにブレイクさせ、ミリオンセラーにした書店ということでも知られている。
本欄では書店関連として、『世界のかわいい本の街』(エクスナレッジ)、『本屋の新井』(講談社)、『「本屋」は死なない』(新潮社)、『書店に恋して――リブロ池袋本店とわたし』(晶文社)、『出版の崩壊とアマゾン』(論創社)などを紹介している。
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