絵本のような表紙だ。「かわいい」というタイトルにぴったり。本書『世界のかわいい本の街』(エクスナレッジ)は世界各地の「小さくてかわいい」本の街を集めている。登場するのはヨーロッパを中心に41か所。ビジュアル重視なので手に取りやすい。ありきたりの海外旅行にあきた人にぴったりだ。
著者のアレックス・ジョンソンさんはイギリスのオンライン新聞『インディペンデント』のオンラインチームに所属。著書に『世界の不思議な図書館』(創元社)、『本棚の本』(グラフィック社)などがある。
本書に登場する「本の街」は初耳のところがほとんど。「美術家や哲学者が集まる都/アスコーナ」(スイス)、「住民の家や納屋も書店に早変わり/ベルプラット」(スペイン)、「メアリー・ポピンズのふるさと/バウラル」(オーストラリア)、「新たなスタイルのブックカフェで読書を/ブレデフォールト」(オランダ)、「白夜にフィヨルドを望みながら/フィヤーランド」(ノルウェー)、「新たなスタイルの書店が街を支える/ゴールド・シティーズ」(アメリカ)・・・。
わずかに聞いたことがあるのは、「モンテレッジォ」(イタリア)ぐらいだ。中世から本の行商人でにぎわった。本欄でも『モンテレッジォ小さな村の旅する本屋の物語』(方丈社)を紹介したことがある。
なぜ、聞きなれない町ばかりなのか。それは登場するのがおおむね新興の「本の街」ばかりだからだ。「最古参」とされる「ヘイ・オン・ワイ」(ウェールズ)でも、「本の街」として知られるようになったのは1970年代からだという。
実は「本の街」というのは、書店を軸に街を活性化させている特定のプロジェクトを指すようだ。すでに「the International Organization of Book Towns」という国際団体ができている。そこに所属している書店街のことを「本の街」と呼んでいる。田舎にあり、古書を扱う書店が集まっている、歴史的な建築物などがあって風光明媚・・・というような共通項がある。要するに、書店街を観光資源に町おこしに取り組んでいるような街だ。それぞれの「街」は連携し、ブックフェスなども開催している。
韓国にも「パジュ・ブック・シティ」という「本の街」があるそうだ。書店、ブックカフェ、出版関係の建物以外はない。北朝鮮との国境線から10キロほど。国家による文化産業団地として建設され、著名建築家による斬新な外観の建物が並んでいる。約250の出版業者が集まり、1万人が働いている。年に一度のブックフェスには約50万人が訪れるという。
残念ながら日本には「本の街」はない。神田神保町は、ちょっとタイプが異なるので番外編に出て来る。世界最大級の古書街だという。このほか「泊まれる本屋」をコンセプトにした「ブック・アンド・ベッド」(西池袋)や、5000冊の本が置かれたレストランカフェ「ぐぐたま」(渋谷)なども紹介されている。
出版や書店に関してはこのところ暗い話が多い。本書も明るい話ばかりではない。ある「本の街」で書店の数が半減したとか、ネット販売に絞ったとか、苦境ぶりをうかがわせる話も出て来る。その中では韓国の話はかなり前向き。日本の出版・書店関係者にとっても参考になるかもしれないと思った。
本欄では関連で、『本屋の新井』(講談社)、『「本屋」は死なない』(新潮社)、『書店に恋して――リブロ池袋本店とわたし』(晶文社)、『東大生の本の「使い方」』(三笠書房)、『出版の崩壊とアマゾン』(論創社)なども紹介している。
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