2015年7月、多くの人に惜しまれながら閉店した書店「リブロ池袋本店」。その店長だった菊池壮一さんの回想録が出た。『書店に恋して――リブロ池袋本店とわたし』(晶文社)。なかなか筆が進まなかったという。40年近く関わった店である。しかも、閉店を看取ったわけだから、様々な思いが込み上げるのも当然だ。
1955年生まれの菊池さんは77年、西武百貨店に入社した。当時は「人気企業ベスト10」の常連。早稲田大学でドイツ文学を学んだ菊池さんとは畑違いの業界だった。5次まであった試験を奇跡的にくぐり抜け、コネもなかったのに受かった。そして配属されたのが、開店2年目の書籍売り場だった。
そこでは百貨店系の社員と、書店系の社員が混在していた。書店系の社員には博識の人が多かった。菊池さんは当時、10万円ほどだった給料のうち7~8万円を書籍代につぎ込んで必死に勉強したという。
ある日、先輩から「たまにはこういうのも読んでみな」と池波正太郎のエッセー『男の作法』を渡されたのが、転機になった。洒脱さに一発でまいってしまい、池波作品を次から次へと読破する。そのうち、作家本人に会いたいと思いが募り、手紙を出す。返事は期待していなかったのに、即返ってきた。「一度、遊びに来い」と自宅に誘われ、顔を出す。そこで一緒になった文藝春秋の担当編集者に、帰り道、「池波さんにあんなに大胆にものを言える編集者はいないよ」と驚かれる。
その話が他社の編集者にも伝わり、池波さんに言いづらいことがあるときは菊池経由で、というようになる。
こうして何人もの有名人と昵懇になり、ブックフェアなどで協力してもらう。このあたりの話を読んでいて、やはり天性の資質を感じた。本を売る、というビジネスを通じての関係にも関わらず、相手に下心を感じさせない。本欄では10月に、西武と共に民間企業の立場で文化をけん引したサントリーで宣伝部長などを務めた若林覚さんの『私の美術漫歩--広告からアートへ、民から官へ』(生活の友社)を紹介したが、若林さんも、井上靖さんに可愛がられるなどいつの間にか有名人のふところに入ってしまう。似たところがあるような気がした。
池袋のリブロは1975年9月に前身がスタート、85年に株式会社リブロになった。優れた書店員の目で本を選ぶ独特の品ぞろえで知られ、人文・社会科学系の書棚の充実ぶりでは全国的に有名だった。後年は、何度もリストラがあり、ジュンク堂に移った社員もいたが、菊池さんは最後まで残るという選択をした。
本書は「リブロ黎明期」「リブロ動乱期」「池袋本店ラストステージ」「ファイナルラウンド」と順に池袋リブロの40年を振り返る。類書はいくつか出ているようだが、菊池さんはリブロの全史を知る人でもあり、閉店後に出た大物OB本としては初めてのようだ。
こうした過去の物語とは別に、最終章の「これからの書店人へ」は現役の書店員にとって大いに参考になるはずだ。著者は現在、日比谷図書文化館図書部門長として図書館運営をしているので、図書館員にとっても役立つ。
本欄では書店関係本で、『本屋の新井』(講談社)、『「本屋」は死なない』(新潮社)なども紹介している。
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