間もなく暮れる2018年、そして明ける19年は、マンガやアニメ、特撮モノのアニバーサリーが少なくない。今年は手塚治虫生誕90年、石ノ森章太郎の同80年、少年ジャンプ創刊50年など。来年には、いまも世代を超えてファンが多い機動戦士ガンダム40年がある。本書『サブカル勃興史』(KADOKAWA)は、昨年以前にアニバーサリーを迎えたウルトラ・シリーズや仮面ライダーシリーズなども含めて、それらのスタート時からの歴史を「視聴者、読者」の視点で追ったものだ。
著者の中川右介さんは、1960年東京生まれの作家、編集者。大学卒業後、クラシック音楽誌の編集長を務めるかたわら、クラシック関係のほか歌舞伎やポップスに関する著書を執筆してきた。また、歌謡曲や映画、スポーツ、アニメなど幅広いジャンルにわたって多数の著書がある。
本書は、タイトルからするとサブカルチャー全般を論じたものとも思われるが、対象は主にアニメ、特撮モノのテレビ番組とマンガ作品。著者によれば、これらは1960年代に「黎明期」にあり、70年代が「勃興期」にあたる。そこでタイトルに「勃興史」を置くことで、サブカルの範囲を限定したようだ。
著者は、その著述歴をみれば分かるが、いわばサブカルの専門家。それだけに内容を限定しながら、サブカル全体を語るがごとく振りかぶるのをよしとしないのか、子どものころから親しんでいた作品を「視聴者、読者」の視点で語ることを強調。また新書のフォーマットをエクスキューズにもしている。そして「1970年代にはまだ生まれていたかった方には『歴史』として、僕と同世代の方には『共通の記憶』として楽しんでいただければ...」と低姿勢なのだ。
評者は著者とほぼ同世代だが、大いに楽しめたし、作品やシリーズによっては大いに共感できた。著者は、執筆のうえではもちろんのことだろうが、視聴者や読者として思い出して書き進めるばかりではなく、作品にまつわる疑問や謎の答えを追究して添えており、その意味でも、リアル世代でないファンにとっては「歴史」を学べる一冊になろう。
本書に登場するサブカル作品は、ドラえもん、ウルトラマンなどのウルトラ・シリーズ、仮面ライダー、マジンガーZ、機動戦士ガンダムなど。これらをメーンにした各セクションで、作者や関係する少年誌、制作プロダクション、派生作品などについても述べられており、カルチャー論ばかりでなく時代ごとの社会論にもなっている。
ドラえもんのセクションでは、作者である藤子不二雄の部分的伝記のほか、藤子アニメの系譜や、マンガ作品が数々の少年誌との絡みがあったことを解説。のちにそれぞれのペンネームを名乗るようになった2人だが、若いころは「手塚治虫の足元にも及ばない」という意味をこめた「足塚不二雄」名義で描いていたことなども明かされる。
藤子作品がアニメとして人気になったのは「オバケのQ太郎」だが、1964年に少年サンデーで最初に連載されたときは意外にも反響がなく9回で終了。しかし、その後に打ち切りを惜しむ声が寄せられ再開となり人気作品になったという。その後65年8月から、TBS系列日曜夜7時半の「不二家の時間」でアニメ化され、さらに人気になるのだが、スポンサーの関連商品の売上が下降線となり新キャラクターを求められ2年後には「パーマン」に代わった。
藤子アニメはこのあと、時間や放送局が変わりながら数々の作品が放映され、ドラえもんへと通じていくのだが、本書では、その裏にあった"おとなの事情"がしかり解説されており興味深い。
ウルトラマンに代表されるウルトラ・シリーズは、66年に始まった「ウルトラQ」が起点。著者は「だから本書の基準である『1970年代に始まった』に含めるべきでないかもしれない」と、取り上げることを躊躇したと述べる。だが、71年4月に始まった「帰ってきたウルトラマン」こそが「今日まで続くウルトラ・シリーズの起点とも考えられる」と気を取り直し、ウルトラQにまでさかぼり説き起こしている。ウルトラQ、ウルトラマン、ウルトラセブンは、オバQの「不二家の時間」に先駆けるTBS日曜夜7時、武田薬品工業提供の「タケダアワー」で放映されたもの。この点からも重要なのだ。
ウルトラQに続くシリーズ第2弾は「ウルトラマン」。当時の子どもたちの間で怪獣ブームを爆発させた「日本初の特撮巨大ヒーロー」と思われているのだが、実はそうではないことが本書では明かされている。ウルトラマンは66年7月10日放送の「前夜祭」で初登場。これより6日前の4日月曜夜にフジテレビ系列で手塚治虫原作の「マグマ大使」の実写モノが始まっており、「初」の栄誉はマグマ大使にあると著者は述べている。
本書では「帰ってきたウルトラマン」が70年代に入ってから始まったことから、サブカル勃興史にウルトラ・シリーズを加えているのだが「帰ってきた―」は、内容は「帰ってきた―」ものでもないし続編にもなっておらず「『新たに来たウルトラマン』とすべきものだった」と述べる。
ウルトラマンやウルトラセブンとの別もの感は、その後の「ウルトラマンA(エース)」や「ウルトラマンタロウ」なども同様で、それは、さまざまな制作サイドの事情があるようなのだが、ウルトラマンやウルトラセブンで登場しておなじみだった科学特捜隊やウルトラ警備隊など「地球側の設定がリセットされるのにウルトラマンたちは共通」ということに感動がなくなったかららしい。著者は「僕より下の世代はどう受け止め、どう解釈したのだろう」と、自らは冷静に距離を置き始めたことを思い出している。74年4月から始まった「ウルトラマンレオ」については、見ていないか忘れているかだそうで、ほとんど記憶にないという。
J-CAST BOOK ウォッチではこれまで、サブカル系の書籍として、『「宇宙戦艦ヤマト」の真実 いかに誕生し、進化したか』(祥伝社)『昭和ノスタルジー解体 「懐かしさ」はどう作られたのか』(晶文社)『タケダアワーの時代』(洋泉社)『詞と曲に隠された物語 昭和歌謡の謎』(祥伝社)『フォークソングの東京・聖地巡礼 1968-1985』などを紹介している。
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