「宇宙戦艦ヤマト」がテレビアニメとして初めて放送されたのは1974年。その後、劇場用のアニメ映画となってシリーズ化され、主題曲はいまでもアニソンイベントなどでメーンのプログラムの一つになっている。日本を代表するアニメの一つである「ヤマト」はその後、著作権の帰属をめぐって裁判になるなど、作品とは別の部分でも社会的に大きな注目を集めた。
著者のSF作家、豊田有恒さんは「鉄腕アトム」や「エイトマン」など、日本アニメ草創期の作品からシナリオ作りなどで携わり、「ヤマト」にも企画段階から関わっていた。本書では、その豊田さんしか語れない制作秘話や、著作権問題の背景にあった内幕が明かされている。
それにしても、なぜいま「宇宙戦艦ヤマト」なのか? 豊田さん自身もなにやらはばかるところがあったのか「まえがき」で「訝しく思われる読者もおられるだろう」とことわって、本書を送り出した理由を述べている。
「実は昨年(2016年)、『宇宙戦艦ヤマト』を記事に取り上げるということで、某大新聞の取材を受けて取材に協力したことが、この本を書く気になった動機である。取材を受けて、企画がスタートした時点でのいきさつなど丁寧に説明したにもかかわらず、当方の意向を無視されるだけならまだしも、まったく違う方向に強引にねじまげられたからである」
豊田さんらは「宇宙戦艦ヤマト」を、SFアニメ作品をつくりたいという情熱で制作し、見る人がそれぞれの楽しみ方をしてくれればいいと考えて世に出した。ところが記事は「ヤマトの背景として、滅びかけた地球と、第二次大戦の末期の日本が、ダブルイメージになっているという解釈を、読者に強引に強要しようとしているのである。ここから反戦平和というイデオロギーに、強引に付会したいらしい」と思わせる内容になっていたという。
だからといって、本書ではその記事を引き合いに出して反論を連ねたものではない。記事をきっかけに「『宇宙戦艦ヤマト』の真実を、ことの経緯と事実関係を書き記してあえて問うことにしたい」と書いたものという。
戦前にさかのぼるという本格的な日本アニメの起源から書き起こし、豊田さんが「鉄腕アトム」や「エイトマン」などのシナリオ作りを通して関わった草創期をクロニクル風につづられる。豊田さんが「恩師」と呼ぶ手塚治虫さんの果たした役割などについて紹介。また、誤解が元となって手塚さんと仲たがいしたことなどにもふれ、ヤマト以前の状況についての回想は、SFアニメ界の裏面史をたどるようだ。
豊田さんに「ヤマト」の話が持ち込まれるのは、アニメの仕事を離れ活字メディアでの取り組みを本格化させたころという。手塚さんの虫プロでの仕事仲間から、本格的なSFアニメをやりたいというプロデューサーに会ってほしいという連絡を受ける。それが、のちに著作権裁判の一方となる西崎義展さんだ。
豊田さんは西崎さんから、SFアニメ作品のジャンルは任せるから設定案の策定の依頼を受け、原案にクレジットを入れるという約束を得て、これを引き受けることにした。
豊田さんは、ロバート・A・ハインラインの「地球脱出」や中国の「西遊記」などからヒント得て、また、1970年代の世相を背景に「放射能で破滅しかけている地球」という舞台設定を着想、アレキサンダー大王に由来する「イスカンダル」などを入れて「アステロイド6」という仮題の原案を制作。その後、松本零士さんが、宇宙船に戦艦大和を改造したものを用いることを提案したという。「そのときのぼくは、異論だらけだった」と豊田さん。
「戦艦大和」の着想について豊田さんは、のちに西崎さんが「ヨットなど海洋に興味・関心があった自分だといい張り、映像著作権を主張するようになる」ことを指摘。しかし「ぼくの記憶に間違いがなければ」と断りながら、松本さんの提案であると述べている。
「宇宙戦艦ヤマト」は1974年10月からいよいよテレビ放送が始まるが、同時間帯には「アルプスの少女ハイジ」やSFものの「猿の軍団」など人気番組があって視聴率は伸び悩み、予定回数は短縮され翌75年3月で終了。だがその2年後に公開された映画は大ヒットしアニメ史上に輝く作品となる。西崎さんは、評価の高まりと前後して作品が自分のものであるという主張を強めていく。
著作権をめぐっては99年に松本さんと西崎さんとの間で法廷での争いとなり、東京地裁は西崎さんを著作者と認定。控訴審に持ち込まれたが2003年に法廷外和解している。西崎さんはこの法廷闘争と前後して、銃刀法違反や覚せい剤取締法違反による逮捕されたり、下肢麻痺で車いすを使うようになるなどの出来事があり2010年に、小笠原・父島沖で船から転落して死亡した。
豊田さんは「多くのクリエイターが、世知に疎いことをもって、良くいえば敏腕、悪くいえば悪辣なプロデューサーによって、その権利が侵害されている実情は、あまり知られていない」と指摘する。豊田さんは、西崎さんから「ヤマト」について「原案にクレジットを入れるという約束」を得たが果たされず、"被害者"の一人と言えるが、そのやり方を告発しながらも、西崎さんがいなければ「ヤマト」の成功があり得なかったことも認めている。
週刊新潮(2017年11月16日号)の書評で本書を取り上げた上智大学教授の碓井広義さんは「著者が『クリエイターの生き血を吸う吸血鬼のような正体』と言う、この毀誉褒貶の激しいプロデューサーの実像が当事者によって語られたという意味で本書は画期的な一冊かもしれない」と述べている。
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