対談は意外な人同士の組み合わせほど面白い。本書『差別と日本人』(株式会社KADOKAWA)は好例だろう。辛口の人材コンサルタント辛淑玉さんと、元自民党幹事長の野中広務さん。いったいどうして、どこで二人は接点があったのか。
2009年6月に発売され、2か月で37万部を突破。トーハンの同年ベストセラーランキングで新書ノンフィクション部門の3位に入った。
新書の帯には「部落とは、在日とは、なぜ差別は続くのか?」。加えて「誰も語れなかった人間の暗部」というおどろおどろしいキャッチがついている。二人の「接点」はこの部分、すなわち「被差別」の体験だ。
野中さんはある時期から部落出身をさほど隠さずに政治活動をした。京都府副知事だった1982年には、部落解放運動関係の集会で、「私も部落に生まれた一人であります」とあいさつ、会場がざわついたという。しかし近年、出自についてマスコミでより広く報じられるにつれ、家族は親戚からも白い目で見られるようになる。「僕が有名になればなるほど、娘や娘婿にも、波紋が広がっていく」。その影響は孫にもおよび、中学のころ、耐えられない差別を受けたという。
辛さんが相槌を打つ。「私、二十歳の時に『これからは本名で生きる』って両親に言ったんですよ。父は黙ってた。しかし、母は『おまえは日本の怖さを知らない』って言ったのね」。姉からも電話がかかってきて、「あんたが自分の正義感を貫こうとするために、家族がどんな思いをして生きているかわかってるのか」。兄からは「本名で生きているおまえは親戚じゅうから嫌われてるんだぞ」。
辛 頑張ってきたつもりだったけど、でも、なんか負けちゃったなって思ったんです。
野中 わかるなあ。僕も同じだから。
対談を終えて野中さんは振り返る。「辛さんの誘導に乗せられて、いささかしゃべりすぎたように思う。気がついたら、誰にも話さなかったようなことをつい口にしてしまっていたりした。『やられた!』という印象だ」
これは、辛さんが自身の体験や心情を包み隠さず話してくれたことが大きく影響しているという。彼女の気持ちが痛いほどわかり、聞いているうちに思わず言葉を詰まらせた。「心と心、魂と魂が触れあうような気がした」。本書を通読することで、いまでも根強く残っている差別の実態が読者に伝わり、差別が少しでもなくなる方向に向かえばこんな嬉しいことはない、と野中さんは語っていた。
内閣の官房長官を務め、政府、国家を代表する立場だった野中さんと、「反差別」の活動などで知られる辛淑玉さん。水と油のように、対極にあると思われていた二人を「差別」という難しいテーマで同席させ語らせる。オモテには出てないが、編集者はこのセッティングや、社内での企画会議では苦労したのではないか。結果として、本は売れ、貴重な肉声の証言が後世に残った。労を多としたい。
本書のエッセンスはj-castニュース「転機となった『裏切り』 野中広務さんの『政治と差別』」でも紹介されている。
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