読むべき本、見逃していない?

「ネットの声」って本当の世論なの?

  • 書名 フェイクニュース
  • サブタイトル新しい戦略的戦争兵器
  • 監修・編集・著者名一田和樹 著
  • 出版社名株式会社KADOKAWA
  • 出版年月日2018年11月10日
  • 定価本体840円+税
  • 判型・ページ数新書・272ページ

 書名の「フェイクニュース」については、もはや誰でも知っている。類書も多い。では本書の特徴は何か。それはサブタイトル「新しい戦略的戦争兵器」という切り口にある。

 要するに、「フェイクニュース」は今や組織的に、一定の意図のもとにつくられるケースが主流になっている、というのだ。すでに多くの国で政府が本腰を入れて取り組んでいる。すなわち一種の「戦略兵器」になっているということを、本書は強調している。

カナダから日本のネットを見る

 著者の一田和樹さんは珍しい経歴の人だ。現在の肩書は作家。2010年には、『檻の中の少女』で第3回ばらのまち福山ミステリー文学新人賞を受賞し、コンピュータ犯罪などをテーマとしたミステリー小説を主に執筆している。それ以前は経営コンサルタント会社の社長や、IT企業の常務もしていたそうだ。そうした経験をもとに13年には単著で『サイバーセキュリティ読本』(原書房)、17年には、今回と同じく角川新書で、『犯罪「事前」捜査――知られざる米国警察当局の技術』を共著で出している。

 しかしながら一田さんのユニークさは、単にネットセキュリティに詳しいというだけではない。実は6年前からカナダのバンクーバーに住んでいる。だから欧米のメディアやネットに近いところにいる。そして海の向こうから、少し距離を置いて日本のネット状況も観察している。

 一田さんの不満は、北米で大きく取り上げられるネット関連のニュースが、日本ではあまり報じられていないことだ。あるいは誤った解釈で伝わっていることもある。その結果、日本人が最新のネット事情に疎くなっている。

公務員が情報操作

 「フェイクニュース」に関する認識もその一例だ。かつてフェイクニュースは、「愉快犯」の仕業とみられることが多かった。インチキ情報をネットに流して大騒ぎになるのを楽しむ、あるいはアクセス稼ぎに利用する。日本では今でも、そのような受け止め方が主流だが、世界の趨勢は大きく変わっているのだという。広い意味での世論操作を目的としたフェイクニュースが、大手を振っているのだ。「フェイク」をつくる主体が、個人ではなくもっと大きな組織になっている。「国家が本気で取り組むものになっている」というのだ。

 中国のネット世論操作部隊「五毛党」のメンバーのほとんどは公務員。アメリカ、イスラエル、ロシアなども政府としてネット世論操作に関わっている。世界48か国でネット世論操作が行われ、その全てが現政権維持を目的の一つにしているという。

 こうした新手の動きのことを「ハイブリッド戦」というそうだ。兵器を用いた戦争ではないが、それ以外の方法で世論を動かす戦い。著者によれば、アメリカ、中国、ロシアなどはそうした戦いに移行しつつあるという。

 では日本はどうなっているのか。著者によれば、「日本でもネット世論操作は行われており、そのために資金が投入され、金を目当てにネット世論操作に加担している者がいる」という。

フォロワーはボット

 実態は本書の第5章「日本におけるネット世論操作のエコシステム」で詳しく書かれている。実行するのは政府自身とは限らない。関係組織などが参画する。現政権に都合のよい主張を行う団体が公益法人などとして認可されている。自民党にはネットサポーターズクラブがある。 そもそも首相や閣僚、政治家らがフェイクやヘイトをたびたび発信している。国内には多数のボット(システムによって自動的に運用されるSNSアカウント)や、サイボーグ(システムに支援された手動運用)があり、現政権支持、嫌韓、嫌中、野党など政府批判者への攻撃発言を拡散している。

 そうした事例は時々、明らかになる。日本青年会議所は「宇予くん」というキャラクターを使ってネット上でヘイト的な活動をしていたことがバレて謝罪に追い込まれた。安倍首相自身も「ほとんどの教科書に自衛隊は違憲と記述されている」という趣旨のフェイク発言を繰り返していたが、実態は違った。昨今の国会での隠ぺいや改ざんも、ある種の「フェイク」の垂れ流しだろう。

 著者は日本の政権党や、ヘイトスピーチを行っているアカウントのフォロワー分析をしている。それによると、全体の47.2パーセントがボット、32.9パーセントがサイボーグだったという。つまり意図的、組織的なバックアップがあるということだ。「ネットの声」は本当の世論といえるのか。

似非民主主義が広がる

 本書を読んで痛感するのはITの進化と、それに対応する取材の難しさだ。昔ながらの記者教育ではこうした最新事情にはついていけない。

 それでも最近は、少しずつ、意欲的な記事が報じられるようになっているようだ。一例として著者は、18年9月16日付けの朝日新聞「選挙戦、ネットのデマ警戒」を挙げる。2月の名護市長選デマ情報を振り返りつつ、沖縄知事選を展望した記事だ。そこでは、クリムゾン・ヘキサゴン社のSNS分析ツールを使ってツイートの拡散状況が分析されていた。著者は「大手メディアが選挙に関してSNS分析ツールを使った記事を掲載するのは珍しい・・・さらに突っ込んだ分析を望みたい」としている。

 日本ではこれから「移民」が増えて、社会のあちこちで摩擦が起きることが心配されている。「日本がフェイクニュース大国」になる要因はそろっていると著者はみる。

 ネット社会ではボットなどを使って、かつてよりも容易にフェイクニュースが蔓延する。それは民主主義の危機であり、似非民主主義になってしまう。日本で起きていることをきちんと調査し、白日の下にさらし、これからなすべきことを考えなければならない時期に来ている、と著者は警告している。

 本欄では、IT社会で世論が操作される様子などを『デジタル・ポピュリズム』で、権力による国民監視が強まっていることを『スノーデン 監視大国 日本を語る』で、政権党と広告代理店の密着ぶりを『広告が憲法を殺す日--国民投票とプロパガンダCM』(いずれも集英社新書)で紹介している。

 また、本書内で偽情報を政府が推進している例として言及されている「江戸しぐさ」については『オカルト化する日本の教育――江戸しぐさと親学にひそむナショナリズム』(ちくま新書)、また、関東大震災におけるデマについては『証言集 関東大震災の直後 朝鮮人と日本人』 (ちくま文庫)、ネトウヨと呼ばれる人たちが依拠する情報については『歴史修正主義とサブカルチャー』(青弓社)なども紹介している。世論を形成する際に、客観的な事実よりも、むしろ感情や個人的信条にアピールするという「ポスト真実」については、『「働き方改革」の嘘――誰が得をして、誰が苦しむのか』 (集英社新書)が詳しい。

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