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ネトウヨは、こうして「気持ちよくなる」

歴史修正主義とサブカルチャー

 琉球新報の若手記者が最近、「自分は以前ネトウヨだった」ということを告白し、ヤフーでも報じられて話題になった。

 琉球新報と言えば、反戦の牙城のような新聞社とみられている。どうしてそんなところに、「元」とはいえ「ネトウヨ」が紛れ込んでいたのか。なぜ彼は「ネトウヨ」を卒業したのか。いずれにしろ、改めて「ネトウヨ」の広がりぶりと存在が注目されることになった。

「拡散の方法」に着目

 本書『歴史修正主義とサブカルチャー』(青弓社)は、そうしたネトウヨの多くが支持する「歴史修正主義」について、「サブカルチャー」に着目して分析したものだ。著者の倉橋耕平さんは1982年生まれ。社会学・メディア論・ジェンダーなどを立命館大学などで教える。ネトウヨと世代と重なることもあって、問題のとらえ方が切実で、視点もなかなか斬新だ。

 歴史修正主義とは、もともとは従来の歴史的定説に対する批判論のことだが、近年、戦後の歴史観を「自虐史観」として否定するような主張や、自国の歴史にとって不都合な歴史を否定する立場、排外主義的な論を指すことが多い。これらについて、倉橋さんは、日本の歴史学者の学会では退けられているにも関わらず、なぜ彼らは学者の批判を意に介さず、執拗に歴史を書き換えようとするのか、なぜ一定の広がりを持つのかということに注目する。

 そこで倉橋さんが気づいたのは、「拡散の方法」だ。「歴史修正主義者の実践は学問とは異なる規則、異なる目的、異なる場所で展開されている」。したがって彼らの主張に対し「誤りである」と批判しても、彼らは別の「ゲーム」をしているから、すれ違ったままになる、というわけだ。

90年代に戻って検証

 歴史修正主義者の主張は、学問的には評価されていないから、学術的な出版社は距離を置いている。他方で親和性が高いのは、ビジネス系の自己啓発書、保守論壇誌、週刊誌、漫画などの商業出版とインターネット。長年「メーン」とされてきたメディアに「対抗」するサブ媒体だ。

 こうした対立が顕在化し、先鋭化したのが90年代。慰安婦訴訟や河野談話、村山談話などの一方で、新しい歴史教科書をつくる会、日本会議、「新・ゴーマニズム宣言」などの動きが交錯した。韓国、中国の経済力やプレゼンスも増した。それゆえ著者は90年代に戻って、歴史修正主義が「どこで語られ」「どのような方法を用いて語られてきたか」に注目しながら検証する。

 特徴として、歴史修正主義に関わるアクターが、自身の専門から離れた「アマチュア」であること、思想を普及する場が商業メディアであること、全国紙など既存大手メディアとの対立をつくる形式で言説が展開されたことなどを指摘している。

 「サブカルチャー」といえば、日本では一般に漫画やアニメなどを指すが、本書ではむしろ主流であるメディアに対抗するメディアをひとまとめにしている。

「都合のいい情報だけを集めていた」

 本書は全体として学究色が濃い。日本国内はもちろん海外文献も多数引用されている。労作と言えるだろう。ネトウヨが依拠する歴史修正主義とは、「サブ」の世界でのみ展開され、市民権を得ている、という全体を貫く分析はなかなか鋭い。冒頭の琉球新報の記者が以前に依拠していたのも、そうした「サブ」メディアだった。わかりやすく言えば「B級メディア」ということか。ネトウヨ化したプロセスで、何から情報を入手したか、琉球新報のインタビューで振り返っている。

 「ファクトチェックを受けていない根拠のない情報や、個人の考えがそのまま載ってしまっているブログなどです。ある意味、事実と反する情報でもネットではそれなりに影響力を持つ場合があります。ネットだけでなく、本を読む際にも自分に都合のいい情報だけを集めていたように思います」(2018年3月25日 オピニオン面掲載)

 問題はまだ残されているように思う。なぜ、こうした自国や自分に「都合のいい情報」に簡単に耽溺し、気持ちよくなってしまうのか。著者の専門に近いところで言えば、フェミニズム論と無縁ではないような気がする。「男性中心主義」と類似する思考は、国家同士や、民族間の関係にもありそうだ。そうした側面からもさらなる論考を期待したいと思った。

  • 書名 歴史修正主義とサブカルチャー
  • サブタイトル90年代保守言説のメディア文化
  • 監修・編集・著者名倉橋耕平 著
  • 出版社名青弓社
  • 出版年月日2018年2月27日
  • 定価本体1600円+税
  • 判型・ページ数四六判・240ページ
  • ISBN9784787234322
 

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