読むべき本、見逃していない?

こんなものまで奉納、日本人の欲望と業の深さが見えてくる

  • 書名 奉納百景
  • サブタイトル神様にどうしても伝えたい願い
  • 監修・編集・著者名小島独観 著
  • 出版社名駒草出版
  • 出版年月日2018年12月 7日
  • 定価本体1500円+税
  • 判型・ページ数四六判・231ページ
  • ISBN9784909646118

 本書『奉納百景』(駒草出版)は、神社仏閣ライターの小島独観さんが、全国数千の寺社を巡るうちに気になった、さまざまな奉納物を紹介した本だ。なんでこんなものを? と疑問に思うものも少なくない。「民間信仰」と言えば聞こえはいいが、我々日本人の欲望と業の深さが見えてくるようで、あざやかなカラー写真がまがまがしく迫ってくる奇書と言えよう。

 奉納物と信仰の起源などがジャンルごとに整理されている。なるほどと思うものもあるが、なんで? というものも少なくない。たとえば、「縁切り・縁結びをつかさどる姥神様」として、福島県檜枝岐村の「橋場のばんば」が紹介されている。社の前には2メートルもの巨大な糸切りハサミが左右に。左側には普通のハサミが積まれ、右側のハサミはすべて刃の部分が針金でグルグル巻きにされている。左は「切れる」つまり、縁切りの、右は「切れない」つまり縁結びをそれぞれ祈願しているという。

 小島さんが、「日本最恐の縁切りスポット」として紹介しているのが、栃木県足利市にある門田稲荷だ。奉納されている絵馬の内容はエグく、相手の住所番地、氏名まで書いてあるものも珍しくないそうだ。男女の縁切りだけでなく、クラスや職場のいじめにかんするものも多いという。相手の写真に釘が刺さっていたり、黒く塗りつぶされていたり、「死ね」「消えろ」など激しい文言は破壊的だったりするそうだ。写真を見ると、確かに「天罰を」とか「一家離散」という文字が見える。怖い。

 一方、古来から牛馬、針、筆と世話になったものはなんでも供養してきたのが日本人。その中でも「屠畜された魂を弔う極彩色の山」と取り上げられているのが、岡山市の「鼻ぐり塚」だ。桃太郎伝説で有名な吉備津彦神社に近い福田海(ふくでんかい)本部という宗教施設にあり、色とりどりのプラスチック製のリングが山のように積み上げられている。これらはすべて牛の鼻につけられていた鼻ぐりだという。大正14年に開祖が始め、現在680万個が奉納されている。奇観だが、牛を飼育・出荷した農家の愛情が感じられる。かつてここでロケしたテレビ番組「ウルトラマンA」で、ヒッピーの若者が鼻ぐりを盗み牛の怪獣になってしまった回があるというエピソードを紹介している。

 釘を打った男根、女性の髪の毛、花嫁人形、ご神木に打ち付けた鎌など、なんでもありだ。釘打ち男根は、熊本市の弓削神社の「浮気止め祈願」の奉納物だが、四角い板に菱形に釘が打ち込まれたものもあり、これは女性器を象った「妻の浮気封じ」を祈願したものだという。写真を見ると女性用もかなりある。悩み深い夫も少なくないようだ。

 山形県村山地方の「ムカサリ絵馬」は、若くして亡くなった子のために「あの世での仮想の結婚式の様子を描いた絵馬」のことだ。絵は素人っぽいが親の情が胸に迫ってくる。青森県五所川原市・つがる市には、これを三次元化した「婚礼人形」もある。

 本書によると、奉納の対象は「モノ」だけではない。「文字」もある。大分県日田市にある「高塚愛宕地蔵尊」には、大量の「願い紙」が埋め尽くすお堂がある。作法があり、願い事を奉納者の年の数だけ書くことになっている。写真には「早く犯人が見つかりますように」と14回書かれている便箋があった。14歳に何があったのだろうか?

稲荷信仰の裏にあるもの

 第9章は「稲荷信仰の裏側にあるもの」として、稲荷信仰から派生したさまざまな民間信仰にも触れている。明治のはじめ、神仏習合を廃された際に、どうしても分離できないものが「明治政府によって無理筋に稲荷信仰に組み込まれてしまった経緯があるようだ」と小島さんは書いている。こうして伏見稲荷大社の裏山の稲荷山は、「混成宗教の巨大なる見本市」と化しているという。

 東京都大田区の穴守稲荷の大鳥居にまつわる祟り話、愛知県豊川市の豊川稲荷の数百対の狐に睨まれる聖域、かと思うと、青森県つがる市には、いらなくなった稲荷神が集められた神様の墓場のような場所がある。たくさんの鳥居が並ぶ高山稲荷にその一画がある。各家庭で必要なくなった狐の石像や社がびっしり置かれている。津軽地方では江戸時代後期に農耕神として稲荷信仰は広まった。離農とともに稲荷さんがいらなくなったという訳だが、狐つきの狐がカミサマと呼ばれる霊能者によって封じ込まれて奉納されているそうだ。そのことに著者は衝撃を受けている。

 本書を読むと、日本にはこんなに多くの信仰があったのか、と驚くとともに、いささか通俗的なそのありように恥ずかしさを覚えるかもしれない。評者は本書のカラフルな写真を見ているうちに、寺山修司のいくつかの映像作品を連想した。日本の土俗的なものを映画や演劇のモチーフの一つにした寺山。時代の推移とともに、そうしたものは薄れてきたと思うかもしれないが、本書はSNS映えを期待した「ヤンママ風にデコられたおっぱい絵馬」(山口県周南市の川崎観音)なども紹介している。伝統的な習俗が時代の流れに合わせて変化したもの、と小島さんは前向きにとらえている。   

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