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「古酒」の味わい、『教場』著者の犯罪「心理小説」

救済 SAVE

 2013年刊行の『教場』が「週刊文春ミステリーベスト10」国内部門1位となった長岡弘樹さんが、文芸誌「メフィスト」に2010年から断続的に発表してきた短編6篇を収めたのが、本書『救済 SAVE』(講談社)だ。人間への観察眼や優しさが共感を生んだ『教場』と同様の感動を呼び起こす一冊になっている。

 組の金を盗んだ、かつての弟分の落とし前をつけるために兄貴分が取った奇妙な行動を描いた「最期の晩餐」、警察庁のキャリアで地方勤務を始めたばかりの若い刑事はベテラン刑事の父親とコンビを組み、元警察官が殺害現場で巧妙な証拠隠滅を図った事件に挑むという「ガラスの向こう側」には、犯罪にかかわる人間への深い洞察力が感じられる。

 障害をもつ人への共感がベースになっている作品もある。うまく人に挨拶が出来ないため、仕事をすぐにクビになる青年は、大震災に便乗した経理係への強盗傷害事件の犯人に迫るカギを握っていた。かつての職場に再び復帰した青年が奇妙な研修を受けるという「三色の貌」には、特殊な障害をもつ青年への温かいまなざしが感じられる。また、放火犯として刑事に疑われた知的障害のある少年を主人公にした「夏の終わりの時間割」も仲間の少年の友情に熱いものがこみあげてくる。

 6つの短編は、いずれも巧妙に伏線が仕掛けられ、ラストに深い余韻が待っている。

 ミステリーの短編集といえば、1年か2年くらいの間に掲載された連作をまとめたものが少なくない。本書は2010年から8年がかりで掲載された独立した短編ばかりなので、高い水準を保ちながら熟成された「古酒」の味わいがある。

 観察眼の確かさが、この著者の持ち味かもしれない。どの作品もぼんやり読み進むと、ラストに至って「何これ?」ということになりかねず、再読をしいられる。読み返して、著者のたくらみ、トリックに気がつき、感心することしきりである。

 『教場』は、ミステリーであるとともに「学園小説」だという評価があった。そういう眼でみれば、本書はミステリーであるとともに犯罪をめぐるすぐれた「心理小説」と言えるかもしれない。  

  • 書名 救済 SAVE
  • 監修・編集・著者名長岡弘樹 著
  • 出版社名講談社
  • 出版年月日2018年11月13日
  • 定価本体1450円+税
  • 判型・ページ数四六判・201ページ
  • ISBN9784065136508
 

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